YokoGoto

カランコエの花のYokoGotoのレビュー・感想・評価

カランコエの花(2016年製作の映画)
3.6
<無垢で残酷な紅い花>
海外の作品では、LGBTを扱った映画は多いが、日本(邦画)ではほとんど作られない、そして観られない現実がある気がする。最近でいえば、生田斗真さんが主演でトランスジェンダー役を演じた『彼らが本気で編むときは、』も良作だったが、一部の映画ファンに支持されたものの、さほど話題にならなかった。

おそらく、その理由は、日本におけるLBGTの理解や寛容性が、若干、不足していることと、日本では社会風刺を描く、社会派作品(映画)を欲していないという点もあろうかと思う。

反面で、LGBT問題は、たびたび政治やイデオロギーに利用され、一時、炎上して、そして話題から消えていく。または、一部のエンタメとして扱われ『芸』として消費される。

その本質には、まだまだ、日本におけるLGBTは『マイノリティ』や『弱者』のように語られ、取り扱われる風土があることを否定出来ないのである。

もちろん、社会全体がLGBTを異物として、おもむろに排除している訳ではない。

ただただ、なんとなくの無理解と、『自分とは違う』という漠然とした違和感。それを潜在意識の中で持っていることで、彼らへの理解の風土が育っていかないのも事実では無かろうかと思う。

その風土がある事を、おもむろにメッセージ化したのが、本作『カランコエの花』。

カランコエという真っ赤な花を映画タイトルにしているが、このテーマの答えが、この花の花言葉にある。それは、あまりにも無垢で純粋で、小さくて可愛らしい正義ではあるのだが、それが本作では残酷なまでに、彼女らを苦しめてしまう。

それが一体、どんな正義なのかは本編を観ていただければわかるので詳しくはレビューしないで起きたいと思う。

とにかく、39分というショートムービーであるが、一つ一つの場面の中に、最大限のメッセージを含ませているので、完全に長編映画1本と同じくらいのメッセージ性がある。これは、監督のセンスであり出演している役者たちの力だと思う。

本作で最もキモになるのは、その生き生きとした役者の使い方にあると思う。女子高生役の彼女たちの雰囲気もさることながら、男子高校生役の二人の雰囲気がとてもよかった。

高校生ゆえの無邪気さに、どこか若さゆえの危うさを醸し出す彼らの演技は、本当に秀逸だった。大人が霞む高校生役の彼らの演技に注目していただきたい。

本作は、高校を舞台に、クラス内でLGBT騒動が起きる事から始まる物語だ。

現役の高校生であれば『自分ならどうする?』という視点で、大人になった私達は『自分だったらどうしただろう?』という、一つ外からの視点で、LGBTへの自分の中の理解を見つめることができる。

答えがでなくても、答えにならなくとも、その場に身を置かずとも、個々で考えるきっかけを与えてくれる優しくて残酷な物語でした。
YokoGoto

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