幽斎

ザ・プロジェクト 瞬・間・移・動の幽斎のレビュー・感想・評価

3.6
原題がAnti Matter「反物質」これ自体がネタバレ気味。先輩の好きな矢追純一氏の番組で登場するフレーズだが、確かにUFOの動力源には最適。実用化出来れば1gの反物質でロケット発射20回分のエネルギーが得られる。地元の京都大学が自然界にほゞ存在しない反物質が、雷に依って大量に生成されるメカニズムを世界で初めて解明。とNHKの夕方のニュース「京いちにち」で見た、知らないだけで実は身近な存在。

「ワームホール」これも反物質同様SFでお馴染みのテーマだが、ネタが古い気もする。ドイツのAlbert Einstein(アメリカのあの人では無い)が1936年に提唱。氏はシュレーディンガー方程式の発明者で、ノーベル物理学賞を受賞。氏の理論を発展させたのがアメリカのJohn Wheelerで、彼が「ワームホール」の名付け親で、ブラックホールの第一人者。その弟子のノーベル物理学受賞者Kip Thorneが時空間のワープを立証出来る論文を発表。これを基にしたのが、Carl Saganの小説「コンタクト」Jodie Foster主演で映画化。Barack Obama大統領がワームホールで火星に行った、のは有名な都市伝説。

イギリスのSFは本作に限らずヴィジュアル的な未来感は無く、学術的な演出が多い。慣れ無いと専門用語の羅列で逃げてる印象を与える。SFを作る場合、観客が知り得る根拠に基づいて、それを拡張した「アイデア」をどう表現するかに掛かってる。ネット時代に専門用語で誤魔化す事は難しく、核と為るアイデアが魅力有るモノに映るかが最大のポイント。しかし、本作の場合は109分間に耐えうるアイデアとは言えず、よく考えると実は単純な話を捏ね繰り回してるだけにも見える。

無名の監督に依る脚本の拙さが現れてるのが、SFで貫き通すべき物語に尺を埋める為にスリラー要素を入れ込んだ。しかし、真相に辿り着けるだけの伏線が、随所で破綻してる。SFとスリラーを両立させるのは、とても難しい。それは理詰めに理屈を掛け合わせるから。結果的に登場人物に感情移入出来ず、主演女優も魅力的(大学生に見えない)とは言えない。但し、これが30分のショートムービーだったら印象が違う、と思わせるプロットも有る。Keir Burrows監督に次が有るなら頑張れよとエールを送りたい。

本作を観てAlejandro González Iñárritu監督「21グラム」を想い出した。生前と死後の体重差が21g、これは「魂」の重さで有ると1907年に提唱したDuncan MacDougall医師だが、学界からは一笑された。私は基本的には理詰めの人間だが、このエピソードは大好きだ。「そんなものある訳が無い」と否定してはノーベル賞は獲れない。MacDougall医師の情熱が、今の脳科学者に受け継がれてるのも紛れも無いファクトなのだ。

低予算で絵面は地味だが、プロットは悪くない。Sci-Fiが好きな方にはお薦め。
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