Omizu

ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件のOmizuのレビュー・感想・評価

3.7
【第31回ゴヤ賞 主演男優賞受賞】
アカデミー賞ノミネート作『Madre』のロドリゴ・ソロゴイェン監督作品。サン・セバスチャン映画祭で脚本賞、スペイン版アカデミー賞であるゴヤ賞では作品賞を含む6部門にノミネートされアルファロを演じたロベルト・アラモが主演男優賞を受賞した。

明確なカタルシスのある映画ではないので、このパッケージから想像されるものとはかなりかけ離れているかも。観終わっての印象としては是枝監督の『三度目の殺人』と近いかも。

吃音持ちで知的なベラルドと感情的で肉体派のアルファロが副題の通りマドリードで起きた連続老女強姦殺人に迫るという内容。

ローマ教皇の来西とその反発、警察組織の腐敗、スペイン社会の生きづらさといった複合的なテーマを上手くミステリーの中に織り込んでいる。ミステリーがおざなりになっている訳ではなく、非常にいいバランスで社会性と娯楽性が両立している。

プロダクションもまさしくそのバランスで、アート映画的でもあり、しっかり娯楽映画的でもある。カメラワークも印象に残るショットが多くあり上手いなと思った。

独身で吃音持ちの刑事も、家庭があり粗暴な刑事もどちらも孤独を抱えていて人と上手く接することができない。そうした家庭や社会の問題、そして差別や偏見と言った問題にも非常に上手く言及してみせている。アルファロの同僚が「そいつはアラブ人か?」と茶化したり、事件があった建物の奥さんが「中国人の店からは買いたくないのよ」と言ったりと肯定も否定もしない。でも無意識の偏見を浮かび上がらせるのがよかった。

カラルシスがない、と言えばそうなんだけど、そもそも原題が『Que Dios nos perdone(神は許したもう)』なので目指しているテーマがそういう方向ではない。神は一体何を許し許さないのか。それを考えながら観ると面白い。
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