るる

モリーズ・ゲームのるるのネタバレレビュー・内容・結末

モリーズ・ゲーム(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

序盤、これが脚本家アーロン・ソーキンが今回初監督を務めることで実現した、彼が真に求めるスピードなのか、と思ったけれど、どうもバタついていて、冒頭のフックとして成功していたのか、チョット怪しいなと。

文字情報必要だったかな? 字幕情報を目で追うことで手一杯だったことも関係してるとは思うけど、ヘタにアニメーション効果を入れる必要はなかったように思う…案の定というか、後半では使われなくなったし…ポーカーの場面では使われてたけど、効果的だったかというと…? ちょっと安易な感じはしたかな…
最初の掴みを台詞の奔流とキャッチーな絵で、って"力み"みたいなのを感じてしまったし、そのわりに結末、幕切れにカタルシスが足りなかったような。

でも好きで、苦笑してしまったけど。

ジェシカ・チャスティン、好きな女優さん、見た目も好きなんだけど、22歳のモーグル選手役には流石に無理を感じてしまって…少し悲しかった…な。どうしようもない部分ではあるけれど。

サントラが好きだった。

予備知識が足りない上に、ことごとく偽名の客たちにピンとこなくて、パンフレットを見ていて、レオナルド・ディカプリオ、ベン・アフレックなども通ったというカジノ、トビー・マグワイアを思わせるプレイヤーX、という記載に、そうそうそういう、実在のスターの存在、リアリティをもっと感じたかったんだよ…という気持ちになった、でも、

いやいやそういうゴシップ映画にはしないんだ、という、実在の人物モリーの倫理観と脚本監督アーロン・ソーキンの倫理観の合致、だからこそ実現した映画なのだということは理解できた。でもでもじゃあじゃあ、ゴシップには頼らない、映画としての面白さを実現できていたかというと…あと一歩、という感じはどうしてもした。

情報を受け止めることに必死で、きちんと映画として追いきれていたかというと怪しい。でも、あのスピードは本当に好きなんだよなあ。
あとアーロン・ソーキンの原点には『ア・フュー・グッド・マン』、やっぱり法廷劇があるよね。パンフにそのあたりを指摘する記載がなかったのが、ファンとしては少々残念だった。

男だらけのなか、のし上がった女ひとり、という感じが、良くも悪くも、あまりしなかったのが…どうなんだろ。
客引き役の女性たちやホステス役の女性たちやディーラー役の女性…彼女たちと一緒に男たちを出し抜いた、という見方もできて…フェミニズムを意識するなら、どうせならそういう見せ方をしてほしかった気もするし、

破産しかけている客をたしなめたり、色目を使ってくる男性ゲストを上手くあしらったり、あのへんの描写をもっと巧みに…言い方は悪いがもっと下品に見せてくれても、良かった気が…
だって毎度二人きりになって親身に、あんなの、ソレを見てる男たちや男たちから話を聞いた部外者から変な噂立てられるのはアタリマエじゃん? そういう脇の甘さがある、見た目の派手さに反して良くも悪くも誠実な女性だったからこそ、破滅したのか…?

意図した演出なのか、偶然そんなふうに撮れたのかがわからず…

いままでにない女性像だったのは間違いないのに、とにかく描写が中途半端になっちゃってたのが、もったいない気がした。見た目と内面にギャップを抱えた女性の描写という意味では『女神の見えざる手』がヤッパリ巧みだったね…

子供時代の回想と、裁判の段取りと、カジノ時代の回想と、メリハリに乏しかったのも、良かったのか悪かったのか。

イドリス・エルバが検察官ふたりに対して演説をぶつ、あそこでカタルシスを感じられなかったのは私の体調が悪かったからか…もう一歩カメラが寄って、落ち着いて見せても良かったように思ってしまった。

たぶん、あれ、モリー本人と面談して取材したアーロン・ソーキン本人の想いが詰まった台詞で、だからこそか、変な距離をとって撮ってしまったんじゃないかな、なんて…思ってしまった。どうかなあ?

父と娘の和解に心が動かなかったのは、私が「上昇志向が強くて厳格でどこか狂気を抱えた父の期待に命がけで応えることで自身の余計な感情を跳ね除けて自由を獲得してきた娘」に感情移入しすぎてたせいで、
そんなふうに和解がうまくいくかなと…またいつもの父親からの泣き落としかよ、大人になった娘は許すしかないよなと…愛憎の描写が物足りず…物語として納得はした、俳優には説得力があったけど、泣けなかったな…

アーロン・ソーキン自身は父娘との関係、いまのところ良好なんでしょう、という気持ちも少し…
と思ったらパンフに、実際にモリーと会ったら自分の娘と会わせたくなったんだ、小さな女の子たちのヒーローになりうる女性だと思った、とのことで、その通り!なんだけど、
じゃあ、あの弁護士と娘の会話をもうちょっと見せてよと…うん…

『るつぼ』を引用したのはあざとい気もした。

あの弁護士、オリジナルキャラに、アーロン・ソーキンが感情移入しすぎてるように思えて…いつもは脚本、脚色のみだから、題材や作品に対して、うまく距離感を保ててた部分に、感情移入してるからこそ、肉薄しすぎることを思わず避けてしまった感じ、避けるな! そこで照れるな、踏み込め! という感じ、

いやー、初監督作品!って感じがしたな! 初々しい! 56歳にして初監督か…でも下手なりに撮り切ってた! 今後も機会さえあれば、もっと深く、題材に入り込んで撮っていけるひと…だと思ったけどな。
今回、実話の脚色だから、題材から距離をとってた部分、客観的になりきれなかった部分もあると思うんだけど、いつか是非、オリジナルの題材で、オリジナル脚本でメガホンを取って、言い訳無用の作品を作ってほしいなと思ってしまったわ…

ファンなの!

心理学者の父、フロイト、オマエのソレは男性ひいては父性的なるものを支配したい欲、うーん…アーロン・ソーキンって『ニュースルーム』でも思ったけど、精神科医の描写が端的かつ上手だよね…
父による懺悔、幼少期のトラウマの開示…マフィアに殴られた娘、復讐してやる、できるわけないことを言って涙ぐむ哀れな父…泣き落とし…狂気じみていた教育、しかし、たしかにそこには愛情がある…娘としてはもう、抱きしめるしかない、わかってる、だって父のこと嫌いだったわけじゃない、父の期待に応えたかった、父に心配されたかった、よくできてる、でも…
いつかこのシーンを見て号泣できるようになりたいな…って自分の人生を顧みるなどした。

最後の、全てを失ったけれど、復帰を宣言する、その力強さは良かったが。あの潔い幕切れ、クリストファー・ノーランを彷彿としたが、成功していたかというと怪しく。音楽に頼るのではなく、オープニングの変奏として、台詞の奔流、高まり、フッと音が途絶えて幕が降りる、としてほしかったかな…これは好みかな…

うーん、正直、正直、もうちょっと映画として起伏が整理されたものを見たかった気がする、

でも好きだった。アーロン・ソーキンのファンなので、細かいことには目を瞑れてしまうのである…好きだった。よ。サントラが良かったね…良かった。
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