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被ばく牛と生きるのKUBOのレビュー・感想・評価

被ばく牛と生きる(2017年製作の映画)
4.0
10月11本目の試写会は「被ばく牛と生きる」。

冒頭から、骨と皮だけになった牛たちの半白骨化した死体が死屍累々と並ぶ牛舎に思わず手を合わせる。震災発生当時3500頭いた牛は、牛舎に繋がれたまま1400頭が餓死したという。

2011年。3.11の震災で住民が仮設住宅等に避難した福島に置き去りにされた牧場の牛たち。ペットは人間と共に避難することが許されたが、家畜は許されなかった。

国からは被ばくした家畜は全て「殺処分」と通達が来るが、手塩にして育てた牛たちを殺すことを拒んだ農家がいた。

「生きることが許されない命」を何とか生かそうとする人たちがいる。仮設住宅から、基準値の数十倍、数百倍という濃度の放射線量に晒されている被災地の牧場に通って、牛たちの世話をする。牧場からは「福島第1原発」の排気筒も見えるほどの距離だ。

彼らを生かすためにはエサ代も含めて相当な額のお金も必要だが、被ばくした大型哺乳類を研究する岩手大学の研究チームの協力も得て、彼らの抵抗は続く。

被災から数年を経て、身体中に白い斑点のできる症状を起こす牛が現れる。

牧場のすぐ隣に除染物の一時保管場所ができて、撤退を余儀なくされる農家。

警戒区域から出してはいけない牛を霞ヶ関まで連れてきて抗議する人。

「私たちの町はチェルノブイリになってしまった。帰れる場所ではなくなってしまった。これからの生涯をかけて、国と東電と戦っていきます!」と渋谷の街頭で声を上げる。

絶対安全なエネルギーと言われて原発と暮らしてきた福島の畜産農家は、震災で被害を受けた上に、殺処分という国からの命令に苦しめられている。

遠くドイツでは原発廃止の国民投票がなされたというのに、この国はこれだけの震災被害を受けながら国民の声を聞かずに原発推進を明言し、あまつさえインドに技術供与までして原発ビジネスに手を染める。

最初から最後まで、見るのも辛いシーンも続くけれど、意識のある人は必見のドキュメンタリーです。
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