YAEPIN

クルーシブルのYAEPINのレビュー・感想・評価

クルーシブル(1996年製作の映画)
4.5
『女神の継承』に触発され、集団パニックもの(?)が観たくなり、集団パニックといえば「セイラム魔女裁判」ということで鑑賞。

B級サスペンスホラーくらいは覚悟していたが、まさか苦難を乗り越えようとする夫婦の絆が見られるとは…!
なんであまり知名度高くないのだろう?
最近映画を観る度、やたらと結婚とか家族の地獄を思わずにはいられないのだが、本作を観て久しぶりに、互いを思い合い信頼し、支え合う建設的な夫婦像に触れた。

セイラム魔女裁判は、17世紀末のアメリカ大陸で実際に起こった裁判である。
ヨーロッパ各地で繰り広げられた魔女裁判の勢いも下火になってきた頃、開拓されたばかりのニューイングランド、セイラム村で事件は起こる。
とある少女たちの告発から、およそ200人の人々が魔女と告発され、そのうち20人余りが処刑された。

魔女にまつわる物語は、ホラー、パニックサスペンス、メロドラマ、フェミニズムなど様々な観点から語られるが、本作は法廷ドラマとしての面白さが大きかった。

当時、神も、それに対する悪魔や魔女も、実体を伴う存在として信じられており、魔女がいるかいないかはもはや議論にはならない。
「魔女(悪魔との契約)」という行為自体が、現在で言う「殺人」や「窃盗」などと同じく罪の一種であると捉えた方が近いと思う。

誰がどのような利害関係の元、どのような供述をするか。
そして冤罪を否定して死ぬのを潔しとするか、自白して命を長らえさせるのが良いか。
法廷の中で繰り広げられる弁論劇に、当時の宗教観や倫理観、貞操観念が織り交ぜられ、誰かのふとした供述により、状況が2転3転していく様が興味深かった。

初めは悪魔や魔女を炙り出すために集まった聖職者や判事も、互いの悪意や疑念から来る傷つけ合いに呆れ果てたのか、被疑者に対して悪魔と契約したことを認めて処刑を免れろと懇願するに至る。
それならば、認めずとも処刑しなければいいなだけだし、魔女に関連する罰則破綻が近いことも思わせる。
とはいえ、判事たちが、徒に魔女を増やしたい訳ではなく、悪を悪と裁きたいだけであるということも伝わった。

状況を翻弄させる本作の大戦犯は、稀代の美少女ウィノナ・ライダー。
以前Netflixで観た魔女狩り映画『悪魔の花嫁』の主人公とほぼ同じ役回りなのに、ウィノナ・ライダーの可愛らしさ、憎たらしさ、狡猾さが群を抜いている。
いくらでもしおらしく可憐に振る舞うことが出来るのに、本作では気持ちいいほど悪役に振り切っており、どんどんエスカレートしていく様はそれこそ悪魔的である。

この騒動は悪魔の存在ではなく、人間である彼女の悪意によって大きくなっていることが、判事や村人に徐々に明らかになっていく。
つまり彼女は「この世の事象は人間の制御出来ない神や悪魔によってもたらされる」という宗教観、人生観をを脱構築する存在であり、近代化の礎とも言える。

そして、彼女を暴走させてしまった冷え切った夫婦が、コミュニーケーションによりしこりを解き、互いへの赦しと愛を得るまでの過程が美しかった。
いくらウィノナ・ライダーでも敵わないと思わせるような堅い契りが見えた。
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