櫻イミト

クルーシブルの櫻イミトのレビュー・感想・評価

クルーシブル(1996年製作の映画)
3.5
史上最悪の魔女狩り事件とされる”セイラム魔女裁判”(1692)の二度目の映画化。原作は劇作家アーサー・ミラーがトニー賞を受賞した同名戯曲(1953)。「クルーシブ:Crucible」とは「るつぼ」の意味。

1692年マサチューセッツ州。敬虔なクリスチャンの村セイラム。牧師の姪アビゲイル(ウィノナ・ライダー)は森の中に村娘たちを集め降霊会を開いていた。主な目的は意中の男性に恋の魔法をかけるという他愛のないものだったが、そのうち興奮状態となり年少の娘が卒倒して家に運ばれる。意識は回復せずやがて”悪魔憑き”の噂が立ち始めると、降霊会を知られたくないアビゲイルは「幽霊が見える。悪魔が村人たちに憑依している」と偽り、無実の村人たちを次々と名指し魔女に仕立て上げていく。結果、魔女裁判が開始される大事となり、濡れ衣を着せられた村人19人に処刑判決が下るのだが。。。

胸糞映画の秀作だった。神権裁判と集団心理の恐怖をまざまざと見せつけられた。ウィノナ・ライダーのヒステリックな嘘つき演技が凄まじくとても憎らしかった。

アビゲイルに扇動され必死の形相で虚偽の性被害等を訴える娘たち。その猿芝居を信じ込み彼女らに寄り添う判事。村人たちがいくら無実を訴えても「魔女は自らを告発などせぬ。となると証言は被害者だけだ。現に子供たちは立派に証言した」と、神の正義の名のもとに断罪していく。結論ありきの裁判の理不尽さ、信仰社会のダーク面が容赦なく描かれていた。

事件の張本人であるアビゲイルがフェード・アウトするのが胸糞悪さを助長する。個人的にはせめて映画上での落とし前を示してほしかった。

原作者アーサー・ミラーによれば、本作はマッカーシズム(赤狩り)をヒントにし警鐘を込めたとの事。本人は当時ハリウッドでのブラック・リストに名前が記載され政府から詰問を受けている。

現在、ダウンタウン松本人志の性加害報道がスキャンダラスな話題になっている。被害者の泣き寝入りはあってはならないことだが、本作を観て昨年の「草津町長、性加害えん罪事例」を連想した。
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