アフガニスタンへ派遣された兵士を追ったドキュメンタリー『アルマジロ』で注目を集めたヤヌス・メッツ監督が手がける、実録スポーツドラマ。
ボルグVSマッケンローというタイトルにはやや偽りありで、本作は実質ビヨン・ボルグのテニスプレイヤーとしての半生を追った作品だ。マッケンローはボルグに多大なる影響を与えたが、作中ではあくまでもサブキャラクターに過ぎない。この点は非常に残念だが、2人の関係性がユニークに描かれていて面白い。
ボルグにとって、マッケンローは言わば「過去の自分」だ。マッケンローを意識すればするほど、ボルグはかつての自分を思い出す。その意味でマッケンローを打破しての優勝は、過去の自分を乗り越え、今の自分が正しいと証明することに他ならない。
一方マッケンローにとって、ボルグは「未来の自分」だ。ボルグは優勝を成し遂げるための最後の壁であると同時に、羨望の対象でもあった気がしてならない。その意味でボルグを打破しての優勝は、自分の目指すべき理想像の獲得に等しい。
2人は互いの中に互いを見出し、自らのアイデンティティの確立を賭けてコートに立つ。ヤヌス・メッツ監督は、ボルグとマッケンローをテニスプレーヤーとして描こうとせず、悩み苦しみ岐路に立つ1人の人間として描き切った。「その終着点がたまたまテニスの試合でした」と言わんばかりの奇妙な構成だが、これを見せられて心が動かないわけがない。
⚫︎トマトメーター
・批評家支持率:84%
・観客支持率 :74%
「本作は、テニスをありえないほど映画的なものにし、シャイア・ラブーフのキャリア最高の演技を引き出している。」