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VisionのKKMXのレビュー・感想・評価

Vision(2017年製作の映画)
1.0
退屈極まりない上に、自己愛臭が強く胸糞悪い駄作でした。テレンス・マリックと同じ、映像が美しいだけの独りよがりムービー。

 一番気になったのは素数。この自然崇拝げな作品の中で、素数というキーワードは垂直にささくれ立っている印象です。すなわちそこにはなんらかの強い意味があります。
 はじめは、『割り切れなさ』なのかと想像していました。この隔絶された自然の中で割り切れなさを抱え、現世に戻る話かも…そんな展開が待っているのか?との予測。その前にフランス女が「Visionは人の弱さを消し去る」と危険極まりない妄言をのたまっていたため、変容の物語かもしれない、なんて考えていたときもありました。

 しかし、『素数は交わらない』ときましたよ。この文脈からだと自分は特別ってことじゃん、自己愛じゃねーか、とビックリ。同時に本作の舞台設定もなんとなく把握できました。
 現世から隔絶された山中はまさにあの世なのですが、異界と現世とのつながりがありません。あの世に来っぱなし。トンネルが2回出てくるのに、奥にしか行かない!そこには「この世は汚い」みたいな厨二純潔思想が見え隠れします。自然の美しさは描かれていますが、恐ろしさが皆無なのが嘘くさく、神への畏れがありません。単なる理想的イメージでしかない。
 つまり、素数である自分(監督ね)は特別で高尚、この世に生きる下々の人間ように低俗で不潔ではありません!パルムドールは是枝じゃなくて私でしょ!と宣言しているように感じ、バカじゃんと思いました。人類の進化が遅いとか、アンタはシャア・アズナブルか。まぁシャアも河瀬も自分が特別と思い込んでいる自己愛野郎って意味では共通してます。

 とはいえ、もしかすると河瀬直美はこのような独りよがりな作品を排泄しないと精神のバランスを崩すのでは、と想像しています。
 炎による痛みの浄化も、痛みを抱えることのできない弱さの裏返しですよね。未見ですが、『あん』『光』は高評価のようです。そこから考察すると、地に足のついた名作を生み出せるが、そんな作品ばかり創っていると反動が来て、本来の厭世主義的映画を生み出さないと病む、みたいなパターンがあるのかもしれません。

 そういう意味では監督にとっての癒しの映画とも考えられますが、葛藤がないからなぁ、癒しになっているのかよくわかりません。
 ちなみに癒しは2種類あり、ひとつめはリラックスで、ふたつめは自分が抱える問題と向かい合って変化・成長することです。表現による癒しは後者のことが多いですが、本作は前者のような印象。そういう意味ではポルノっぽくもあり、自慰してスッキリ、次回は現実っぽいやつをガマンして撮ろう!みたいな要素もありそうです。
(現在、この仮説は間違っているのでは、と思っています。理由を追記しました)

 奇怪なインナーワールドを持つことは決して悪いことではないですし、バランス取って生きていく上では必要な人もいるでしょう。ただ、それを公衆の面前であまり工夫なく「アートでござい」と開珍するのは如何なものかと思います。ホーリーマウンテンばりにキていればビザールな世界を楽しめるのですが。

 平日レイトで本作を鑑賞したのですが、観客は私ひとり。貸し切りでした。公開第1週目でこのザマなのも、こんな内容では宜なるかな、であります。
 ちょうど同じ時間に『万引き家族』をやっていたためどっちにするか迷いましたが、素直に万引き観ておけば良かったです。まぁ、貸し切りを経験できたので良しとしましょう。


【追記】
 2022年に河瀬直美パワハラ報道がなされるようになりました。さらに、2021年のオリンピック番組でのウソ演出等、河瀬は急速に信頼を失っています。
しかし、本作を観れば河瀬の自己愛的で選民思想的傾向、攻撃性が見事にダダ漏れしていたとわかります。
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