掛谷拓也

点の掛谷拓也のレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.0
30分程度の短編映画。過疎だと思える田舎町に古くからある実家の理髪店を継いだ山田孝之のところに、10年ぶりに友人の結婚式のために帰ってきたという高校時代の彼女がやってくる。山田孝之に襟足を剃ってもらって帰ってゆくというだけのストーリー。夏の田舎町の青い空、白い雲、山や森の緑、蝉の鳴き声という状況が気持ちいい。そして何よりもロケ地の古びた理髪店と街並みがいい。くすんだ古いコンクリート作りの建物の中に、何十年も磨き抜かれたような木の床と、古いツヤのある理髪店の設備。無口で不器用な山田孝之が黙って剃刀を研ぐ音だけが響くシーンが心に残る。高校時代の彼女とのぎこちない思い出話もリアリティがある。都会で不倫しているらしい彼女と、その町に妻子のいる山田孝之との間に今後何か起こる気配もない。抑制的な音楽が通底基調を作り、襟足を剃ってもらったあと、じゃあねと笑顔で緑豊かな田舎道を自転車でスピードを出して走ってゆく彼女の映像からは、何かに賦活され再生されたイメージが伝わってくる。観客もいい気分のまま映画を見終える。上質な短編小説を読んだような視聴感。