MasaichiYaguchi

蝶の眠りのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

蝶の眠り(2017年製作の映画)
3.4
ジャンヌ・モロー主演の「デュラス 愛の最終章」にインスパイアされたチョン・ジュウンが監督・脚本を担当し、5年振りに中山美穂さん主演で製作された恋愛映画は、小説がモチーフになっていることもあり、文学的で叙情性に満ちている。
中山美穂さん演じるヒロイン・松村涼子は人気女流作家なのだが、遺伝性アルツハイマーに侵されている。
不治の病いによって作家として人として終わってしまう前に何かを残そうと大学講師を始めた彼女は、ある切っ掛けで韓国人留学生の青年ソ・チャネと知り合う。
本作では、涼子とチャネとの交流を通して互いに惹かれ合っていくという恋愛劇が描かれるのだが、その物語は涼子が作家ということもあって文学が香り立ち、美しい映像と音楽に彩られている。
ただ、この恋愛には涼子とチャネの年齢差や、彼女が人気女流作家であるということ、大学講師と教え子という立場、そして何より遺伝性アルツハイマーという不治の病いが2人の間に立ちはだかる。
このように越え難い数々の障害を抱える2人の恋は、どのような結末を迎えるのか?
この作品には幾つかキーワードが出てくるが、その中で「記憶」「偶然」「痕跡」の3つが終盤の展開で大きな意味を持ち、やがて心に熱いものが波のように押し寄せてくる。
アルツハイマーをモチーフにした恋愛映画というと「きみに読む物語」があるが、それに連なる本作もラストに何とも言えない余韻を残します。