題材の画家、熊谷守一のことを知らなくても楽しめる作品だと思います。
観る前に、森みたいな庭を持ち、虫や猫と生活している画家の映画ときき、「丁寧な暮らし」をしている話か? と思ってしまいました。
実際は、現代で尊ばれている「生き物や家族を大事にし、何事へも感謝する」とはずれている作品です。
数十年一歩も家を出ず、一日中庭で観察をしている画家、見知らぬ人が家につどっても動じないけれど、「まるで仙人ですね」と言われると怒る画家。
妻を演じる樹木希林さんは、あの独特なたたずまいで場を圧倒していきます。
性格が流されやすいわけでなく、守りたい考えが細く固まっている老夫婦なのだという演技がよかったです。
個人的に、映画においてうらやましくなる老夫婦像というのがありました。見た目に衰えはあるけれど、カラッとした明るさと優しさがあるものだったり。
今作の老夫婦に、快活という表現は合いません。彼らは特別優しいわけでもないのに、目が惹きつけられる映画でした。