うにたべたい

FILAMENTのうにたべたいのレビュー・感想・評価

FILAMENT(2017年製作の映画)
4.1
2018年、学生の田中大貴監督が学生映画祭で大賞受賞した作品。
30分程度の短編映画なのですが、学生が自主制作したと思えないくらいできがよくて面白かったです。

予告編を見るといかにも日本映画然とした暗い雰囲気の特撮ヒーローもののように見えます。
内容を見ると、特撮ヒーロー的な部分は表向きで、自分が何者かわからず、また何者でもないただの自分であることを受け入れられない若者の葛藤と闇が描かれた作品のように思えました。

超人的な力と飛行能力という、異能の力を持って生まれた「雄介」は、その力を秘密にしたまま、自作のヒーロースーツを身にまといヒーローとして活躍していた。
だが、そういった力を持っていながら愛する人をテロから救えなかったことに苛み、ヒーローを辞めてしまう。
その直前、そのヒーローに声をかけられた清志は、ヒーローとの出会いに"自分の進むべき道"を見出す、という展開です。

自分がこの場所にいることを、動画配信サイトを通して訴え続けてきた清志は、自分の叫びに応えてくれる声もなく、孤独感を募らせます。
清志は、ヒーローの登場するマンガのファンでしたが、彼が惹かれたのはそれに登場するヴィランでした。
そこで清志は、極めて後ろ向きな選択をするのですが、後味の悪い結末に終わります。
作中、罪のない人が、拷問を受けた上で殺害されていて、犯人がその報いを受けた様子もないです。
また、犯人の主張も利己的すぎると感じました。
ただ、SNSが発達し、あまりに多い表現の場が開放された社会に生きる現代人が見ると、共感できるところもあるのかもしれないです。
30分という時間枠があった故か最後はぷっつりと終わった感じがありましたが、伝えたいことは伝わってくる映画だったと思います。

すごくしっかり作られてますが、監督・脚本・編集等、田中大貴氏が担当していて、ヒーロースーツも100円ショップやハンズで揃えたとのことで驚きました。
そこいらの大金を注ぎ込んだ商業作品よりもよっぽどクオリティが高く、とても楽しめました。