くまちゃん

ジョン・ウィック:パラベラムのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

シリーズを通して今作ではジョン・ウィックの代名詞「〇〇・フー」が多用されている。犬を使う「犬・フー」馬を使う「馬・フー」本を使う「本・フー」ナイフを使う「ナイ・フー」。カンフーと銃をもじった「ガン・フー」はまだわかる。だが、フーとはなんぞや?
本来功夫とは鍛錬や訓練の蓄積、それにかけた時間や労力を指す。ブルース・リーの映画が世界的にヒットした際中国武術と関連して広まったと言われている。
つまり、武器とフーを組み合わせるのは言葉的に間違っており悪い意味でダサいネーミングの上意味がわからない。

追放処分を受けたジョン・ウィックは1400万ドルの懸賞金がかけられた。
ウィンストンは処分執行まで1時間の猶予を与えられたため、隠してある十字架と誓印のメダルを回収しに図書館へ向かう。図書館では旧知の暗殺者アーネストと遭遇する。アーネストは2mを超える長身とリーチの長さが特徴的だがジョンの敵ではなかった。
このアーネストを演じたのはプロバスケットボール選手のボバン・マリヤノヴィッチ。このキャスティングは「死亡遊戯」でのカリーム・アブドゥル・ジャバーを意識したものではないだろうか。
またボバンはプロの役者ではないため、キアヌとの殺陣はお互い遠慮している印象があり、非常に迫力不足な結果となっている。

アーネストを倒したジョンは負傷し、闇医者ドクのもとを訪ねる。初めこそはジョンを拒絶するが、あと5分あると訴える哀れな友人を見過ごすことはできない。その善意虚しく傷口の縫合途中でその時を迎えてしまう。このまま治療を続ければドクも追放及び粛清の対象となってしまう。薬品棚を漁るジョンに痛み止めの位置を教えるドク。この優しさも規則違反。ドクは自分を撃つようにジョンに提案する。脅迫されたことにすれば処分を免れると考えたためだ。
躊躇なく、容赦なく、正確に旧友の闇医者を撃つジョン。治療を施し、逃げ場のない自分に手を差し伸べてくれた善意に対して最大限の敬意と感謝を持ってトリガーを引く。

骨董品店でのその場の物で闘うスタイルや、馬屋での馬を使ったユニークな倒し方、アーネストとの本を武器にしたアイディアはどれもジャッキー・チェンからの影響が見て取れる。
ただジャッキーのスピーディかつユーモアに富んだアクションで育った世代にとってはどれも物足りなさが残るのではないか。特に本に関してはジャッキーの方がテクニカルでウィットに富んだ戦い方を見せてくれたはずだ。

今作ではジョン・ウィックのルーツの一端を垣間見る事ができる。「ルスカ・ロマ」ジョンがかつて暗殺者てして育成された犯罪組織。ここのボス、ディレクターが銃の扱いや近接戦闘術ではなくバレエを指導しているのが洒落ている。 

ジョンに猶予を与えたウィンストン、ジョンの復讐を間接的に補助したキング、両者の下へ主席連合から裁定人が派遣されてくる。彼女はウィンストンにコンチネンタル・ホテルでの役職退任を命じ、キングは王座剥奪の憂き目に合う。
ジョンに与えられた銃弾の数になぞらえ7回切られるバワリー・キング。その生き様は主君を守るため12もの傷を負いながら生還した三国志、呉の武将周泰の如く。

自分を追う主席連合を止めるにはどうすればいいのか。それはその上に行くしかない。会社と同じだ。上司が駄目ならさらに上の役職に掛け合うしかない。
主席連合とは国際的に闇社会を統括する巨大企業の事だ。そしてその頂点に君臨するのが首長である。

ソフィアはコンチネンタル・モロッコの支配人を務めるが、かつては彼女もまた殺し屋であり、娘を守るため第一線を退き今の座についた。そんなソフィアにジョンは誓印をチラつかせベラーダへの仲介を依頼する。ジョンは皮肉にも前作におけるサンティーノと同じことを旧友にしていることになる。
ソフィアを初め、大切なもののために引退した、もしくはコンチネンタルの庇護に入った者たちが多数登場する。一度染まった闇からは逃れられない。その希望を覆う暗雲の象徴としてジョン・ウィックがいるのだろう。

ソフィアは家族のため殺し屋を辞め、誓印によって引き戻され、さらには犬を殺される。ジョン・ウィックをなぞっているかのようなキャラクターは女性にすることで性格上の魅力を別の角度から発揮しているように思える。

砂漠の中心に鎮座する首長はジョンに問う。ここまで追い詰められながらなぜ死を選ばないのかと。ジョンは応える。妻との思い出のためだと。そこに確固たる強靭な意思と覚悟を見て取ったのだろう。首長は再び主席連合に忠誠を誓えば暗殺命令は撤回するという。
首長によって下された試練。それはウィンストンの殺害だった。さらに誠意を示すため左手薬指を切断し、ヘレンとの結婚指輪を差し出す。それは生きるための理由、ヘレンとの思い出を担保にしたに等しい。

コンチネンタル・ホテルではウィンストンが退任の命を、ジョンはウィンストン暗殺を拒否する。裁定人によるホテルの聖域指定解除を受け、作中最も過激な戦場と化す。

暗殺者集団を束ねるマーク・ダカスコス演じるゼロは、表の顔は寿司屋の板長であり、仕事としてジョンを追い詰めながらも生ける伝説ジョン・ウィックの大ファンであるというキャラ設定の渋滞をおこしている。
ゼロと部下の師弟関係やジョンに対する武士道精神、ゼロの繰り出す流暢な日本語は作品にさらなるケレン味を与えるとともにチャド・スタエルスキの日本愛を感じる事ができる。

ゼロの弟子2人と闘うジョン。ジョンは小柄で動きの早いアジア人に苦戦する。長身のジョンはこれほど身長差のある相手と闘う機会が少なかったのかもしれない。下から繰り広げられる縦横無尽な打撃の連続に遅れを取るジョン・ウィック。それもそのはず。弟子の1人を演じているのはインドネシアのアクション俳優ヤヤン・ルヒアン。「ザ・レイド」で見せた超人的強さは未だ健在のようだ。

弟子2人の動きはキレにキレまくってたが、相対的にキアヌが鈍重に見えてしまう。いくつものガラスを割る場面は画面の派手さを優先させているためか、迫力の割には退屈。

シャロンは言っていた。防弾の技術は上がっていると。主席連合の襲撃部隊は生半可な重火器では太刀打ちできない重装備で身を包み、ホテルスタッフをジリジリと追い込む。ジョンとシャロンは手を変え品を変え1人、また1人と地道に抹殺していく。銃弾を通さないのなら、さらに貫通力のある銃を使えば良い。防弾スーツが煩わしいなら、スーツの繋目を攻撃すれば良い。どんな相手にも必ずウィークポイントは存在する。

主席連合の精鋭部隊と言えど勝ち目がないと悟ったのだろう。裁定人はウィンストンに協議を提案する。ウィンストンは自身の権力の保持を求め、裁定人はホテルの反抗は力を示すためであったと解釈する。傍からみれば都合のいい解釈だが、ジョン・ウィックの加わったNYコンチネンタル・ホテルの武力は圧倒的であり、裁定人もまた選択の余地がなかったのだろう。主席連合としてもこれ以上の失態を繰り返さぬようにとした妥協点が「和解」なのである。

協議中現れた歴戦の猛者ジョン・ウィック。それに旧知の友は容赦なく発砲する。ホテルの屋上から転落するジョン。そして奈落の底からジョンの姿は消えた。マイケル・マイヤーズのように。つまりブギーマンである。

バワリー・キングは生きていた。7箇所もの傷を負いながら。
満身創痍のジョンへキングは訊ねる。反逆の意思はあるのかと。ジョンは肯定する。ルールに縛られ、破り、追われ、常にルールに振り回されてきた男はついにルールそのものと対峙する。この反逆の狼煙は激動の最終章へ託された。
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