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ターミネーター ニュー・フェイトのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

メキシコシティの自動車工場で働く21歳の女性ダニーは、未来から来たターミネーターに襲われる。そんな彼女の窮地を救ったのは、同じ未来から送られてきた強化型兵士グレースだった。ターミネーターが執拗な追跡を続ける中、伝説の女戦士サラ・コナーが彼女たちの前に現れる…。

ジェームズ・キャメロンが生み出したSFアクション「ターミネーター」のシリーズ通算6作目で、キャメロンが直接手がけ、名作「ターミネーター2」の正当な続編として話題となった作品。
劇場で見ようかと思っていたが、あっという間に上映終了してしまった。
どうやら米国でも日本でも興収はコケたらしい。
配信で見て「なるほど」と納得。
時系列は確かに続編かもしれないが、内容はパラレルワールド的。
アクションは素晴らしいが、ストーリー的には佳作といった印象である。

冒頭、サラ・コナーの語りから入る「T2」の続きはオールド・ファンには衝撃的だ。
CGにより約30年前のサラとジョン・コナーがそのままの姿で見事に再現される中、ジョンがT-800に殺される。
どうやら人類を敵と看做したAIスカイネットは様々な時代にターミネーターを送り込んでいたらしい。
「審判の日」を回避したはずのジョンと、すくすく育つはずの子どもが殺される映像は二重の衝撃である。

時は進んで現代に。
全裸の白人美女と小柄なラテン系男性が未来からやってくる。
女性は目にも留まらぬ素早い動きでゴロつきを圧倒し、ラテン男性は身体を変形させて人を殺す。
ターミネーターが男女2体やって来たかと思いきや、白人美女はダニーを守り、ラテン系男性のターミネーターはダニーを殺そうとする。
もうこの時点で、追う者、追われる者、そして守る者と必要なキャラクターは揃ったし、ポリコレ対策はOKだ。

本作は序盤の高速道路でのバトルが沸点。
過去作でのカイル・リース的な役回りの強化型人間の美女グレースのキャラクターが良い。
無駄な肉付きの無い筋肉質な裸の時点で、相当身体を鍛え上げて来たことは分かる。
打突や関節技を繰り出す辺りも演じる女優が撮影前にいかに鍛錬したかが分かる。
壮絶な世界から来た未来の兵士として説得力があるのだ。

全身に金属やら装置を埋め込み、彼女はダニーを守るために未来からやってきた。
ダニーが未来で何者かは分からないが、決意と使命感を感じるマッケンジー・デイヴィスの役作りが見事だ。

新型ターミネーターと互角に戦うグレースだが、それでも追い詰められ、いよいよ絶体絶命!
守る者を挟みながら緊張の連続はまさにターミネーターらしいシーンだ。
その時、助けに来たのは何と年老いたサラ・コナー。
「T2」よろしく、慣れた手付きで炸裂弾やらバズーカをぶっ放し、ターミネーターを撃退するサラの変わらぬ勇ましさには、懐かしさが込み上げて拍手喝采だ。
まさか「I’ll be back」をサラが言うとは、思わなかった。
オールド・ファンには嬉しいギャグである。
なるほど、サラが本作でのT-800か。
これではシュワルツェネッガーの出番など無いではないか。

予感は的中。
シュワルツェネッガーのT-800はなかなか出て来ない。
一方、強化人間であるグレースはドーピングしないと戦えない身体だと分かり、分が悪くなる。
登場するのは女性3人がターミネーターの追跡を終わらせる決め手がなくなる後半だ。

ジョンを殺されて生きる気力を失ったはずのサラが、なぜ高齢の現在でも元気いっぱいでターミネーターをハントできるのか?
その秘密が明かされる。

サラはジョンが殺されてからも送り込まれて来たターミネーターを殺し、生き甲斐を得ていた。
その情報を携帯に送っていたのが、なんとジョンを殺したT-800。
目的を達して自由となったT-800は人間を観察するうち、人間と共存するようになったという。
「おいおい、人類を片っ端から殺すのがターミネーターの使命では?」とツッコまずにはいられない。

それに、そもそもスカイネットが生まれなくなる未来からT-800が来たのはどう考えてもタイムパラドックス的に矛盾だ。
と、思ったら新型ターミネーターを送り、グレースら未来人類の敵となったのはスカイネットではなく別のAIだと言う。
うーむ、深く考えたくないが、その基本設定から違うとなると、もはやパラレルワールドだ。

罪滅ぼしをしたいT-800を味方に加え、逃げてばかりではダメだと、新型ターミネーターを待ち伏せして最後の決戦に及ぶ。
すると意外にも最も闘志を奮い立たせるのは、守られるお姫様だったダニーだ。
サラのようにダニーが将来産む子が未来の救世主になるのではなく、ダニー自身が人類のリーダーになっていくのだとグレースは語る。

もう、こうなると本作における男性は、T-800も含めて完全に脇役。
主役は女性だ。
それは過去作にも共通するキャメロン監督らしい脚本だ。

本作のテーマはT2と同様、憎むべき相手を赦すキリスト教的な博愛であり、忌わしい過去からの脱却。
そして新時代へ勇気や信念という襷を渡す引き継ぎであるはず。
T2ではそれが感動を呼んだ。

それらをT2で担っていたのはサラ・コナーだ。
正直、本作のラストはサラの見せ場が無いのが残念だ。
初めにT2におけるT-800のように登場したのだから、てっきりサラの壮絶な死に様があって新時代へ襷を渡すのか?と思っていたが、自らの動力源を武器にして自己犠牲のもと死んでいくのはグレース。
新型にトドメを刺して死んでいくのはT-800だ。

これではカイルが死ぬT1、T-800が自己犠牲で死ぬT2と同じエンディングで驚きは少ない。
「老兵(サラ)は死なず」である。
それならば、特に「忌わしい過去からの脱却」のため、死にゆくT-800に対してサラは粋なセリフを言って欲しかったものである。

T2でのジョンとT-800が擬似親子ようになる微笑ましさには「機械でも人間と通じ合えるならば、私たちも変われるはずだ」というAIとの共存は、SF映画がシンギュラリティを迎えようとしている今、考えるべき題材だ。

本作でもT-800が人間の女性と家族を形成するという行動により、それを繰り返しているからには、本作の続編以降で「未来が変わる」ことを描くつもりがあったのかもしれない。

だが、この本作の興行的失敗により、その結末部分は見られなくなる可能性が強まった。
そもそも、さらに続編を作る気があったようは見えないのだが。

近年のハリウッド映画らしく、女性が主役で、メキシコ人への差別と分断に反発し、ダイバーシティの流行も取り入れている。
女性によるアクションも素晴らしい。
しかしストーリーは過去作の焼き直し。
ならば、オールド・ファンには申し訳ないが、サラが死んでキッチリと旧シリーズに引導を渡して欲しかったものである。

サラ・ハミルトンにしても、アーノルド・シュワルツェネッガーにしても、もはや高齢で新たにシリーズを牽引していくのは辛く、興行成績も望めないだろう。
やはり正統な続編を描くには、時が経ちすぎてしまったのは否めない。
同窓会映画の側面が強いスピンオフ作品と捉えるべきかもしれない。
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