ずどこんちょ

ターミネーター ニュー・フェイトのずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.7
ジェームズ・キャメロンが製作担当にカムバックした、T2の“正統な続編”ってなんぞや、と思っていましたが、確かに正統な続編と言える作品でした。
サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンやT-800のアーノルド・シュワルツェネッガーが新たな闘いに活躍してくれたのは嬉しい限りです。以前はCGで若かりし頃の顔だけ登場とかしてましたからね。

ただ、「3」とか「4」とか「T2」に続いた後発作品を無かったことにするかのようなパラレルワールド手法は個人的にはあまり受け入れられなかったです。
というのも、「T3」は実はターミネーターシリーズを初めて劇場で観た作品。これまでテレビでしか見たことなかったシリーズを、父と一緒に映画館へ見にいったそれなりに深い思い出があります。大規模なカーチェイスを大きなスクリーンで見て当時圧倒されたものです。
そういう意味で自分の中ではシリーズで最も思い入れのある作品だったので、それが泡と消えてしまうのは一抹の寂しさがあります。
無かったことじゃなく、あれもあれで「ターミネーター」の一編であると堂々と語って欲しかったのは本音です。

それでも作品自体に言及すれば、確かに、このスリルと興奮はこれまでの泡と消えた続編にはあまり作り出せなかったと思います。
とにかく終始、「暗殺者とターゲットの追いかけっこ、そして反撃」なのです。歴史は繰り返すかのように、まさに『T2』のあの頃と同じ展開。だからこそゾクゾクします。T-800が家族との別れのシーンで伝えていたように、「過去が追ってきた」のです。
かと思えば、戦いの構造に新たなドラマ性を持たせていることなど細かな部分で進化も見られます。ターミネーターシリーズの世界観に新たな運命(ニューフェイト)が切り開かれた感じがします。

今回の敵は、やはり未来から送られてきたRev-9。スカイネットの存在が抹消された未来においても、やはりAIは人類に反旗を翻しました。圧倒的な戦力で短期間で追い詰められていく人類。
そんなAIが未来で人類抵抗軍の鍵を握るダニーを暗殺するために、現代へと送り込んできたのがRev-9です。
液体金属で擬態できることはもはや当たり前。なんと外皮と本体を分離させ、2体同時追撃が可能なのです。これが恐ろしい。
更に『T2』のT-1000と比べても、人間的な会話や冗談を交わせるほどAIとしての進化をしています。
アフガニスタンで従軍していたから腰に金属が入っていると言って、簡単に警備の同情を買って金属探知機をスルーするのも人間的。もちろん警備が甘すぎる気もしますが、過去のデータから現代に生きる人間にも通じる虚偽の身の上話ができることがすごいです。擬態がより人間に近付き、見分けがつかないということですね。

もう一人、未来から送られてきたのがグレースです。人類抵抗軍が、ダニーを守るために送り込んできた未来の兵士。『T2』の頃と違うのは、グレースは機械ではないといことです。
グレースは生身の人間に強化改造を施した強化型兵士なのです。機械の力で戦闘力が特化した反面、生体維持のために適度に投薬もしなければならないハンデを背負っています。
人間には聞き分けられない遠くの音を聞き分けたり、圧倒的なパワーでRev-9とも張り合う頼もしいグレースですが、投薬を欠かすと重荷となってしまう諸刃の剣的なボディガードです。

しかし、グレースは人間です。
ターミネーターシリーズの面白さは、執拗にターゲットを追いかけてくる機械に対して人間は逃げ延びて、決着をつけるまで戦い続けるしかないということです。機械はエネルギー切れを起こさず、何度倒しても再び追いかけてくるのですが、人間は違います。
体力も切れるし、身体が傷付けば簡単には治癒できません。それでも追ってから逃れるために命辛々また立ち上がるための動力は「心」なのです。
グレースにとってダニーは未来の命の恩人でした。機械の攻撃を喰らい、食料を失った人類が味方割れを起こしている未来。食料をめぐって殺されそうになっていたその時、グレースを助けてくれたのが未来のダニーだったのです。

本作にはダニーを助けるためにサラ・コナーや、T-800も登場します。
しかし、サラ・コナーは本作の冒頭で深い悲しみを背負っていました。『T2』の後、それでも執拗に未来から送られてくる追っ手から逃れていたサラ・コナーと息子ジョン・コナーでしたが、結局、数年後にジョンは新たに送られてきたT-800に暗殺されてしまったのです。
審判の日は回避し、スカイネットの反逆も阻止でしました。グレースいわく、そのような未来は起きていません。しかし、起こらないはずの未来から送られてきた暗殺者によって抵抗軍リーダー・ジョンは殺されていたのです。『T2』までのストーリーを知る限り、幕開けから衝撃の展開です。

では、Rev-9が狙っていたのは誰なのか?サラいわく、ダニーの息子が自分と同様に抵抗軍のリーダーとなるのか。そう推測されていましたが、実際に未来でグレースを助け出し、人類に共闘を呼びかけたのはダニーでした。
つまり、未来において人類抵抗軍を率いていたのは、ダニーの息子ではなくて、ダニー本人だったのです。
これが『T2』の頃とは違った現代的なストーリーの進化のように思えます。
女性リーダーが人類を率いる。本作ではダニーのボディガードとして送られたのがグレースだったように、サラ・コナーが歳を取ってもなお人類の希望としての強さを示していたように、女性の強さが敵を圧倒させていたと思います。
リーダーの"母"としての存在だけでなく、彼女たち自身が"リーダー"となる未来なのです。
グレースが戦い続けている理由、傷を負ってもまた立ち上がる動力源は、命の恩人であり、人類の希望であるダニーを必ず守ることだったのです。

では、T-800は何をしているのか。
田舎でカーテン屋を営んでいるのです。驚きです。ジョン・コナーの暗殺を終えた後、任務を終えて現代に取り残されていたT-800はカールと名乗りながら人間界に溶け込んでいたのです。
人間の妻子と出会い、家族まで作っています。始めのうちはきっと人間界に溶け込むための擬態だったのでしょうが、いつしかT-800は子育てを通して、子供を愛することの意味を知るのです。
機械が生活を通して、ほぼ人間と同じ愛情を学んだのです。だからこそ、サラ・コナーに身元を隠しながら次々と未来から送られてくるターミネーターの居場所を教え続けていました。
部屋に合うカーテンを薦めるターミネーター。戦闘とは真逆の生活感あふれる日常を過ごしていることを想像するだけで不思議です。

今も武器を手にして戦い続けているサラ・コナーに対して、今は武器を置いて家族を守るために生活していたT-800。力を持つ女性と、力を捨てた男性が対照的に描かれています。
しかし、ダニーの危機を知ったT-800も現代で最後に残された任務が家族や人類を守ることであることに気付き、彼女たちの闘いに協力していきます。

最後、逃げ続けることでは決着できないと知ったダニーは、自らが囮となって対峙することを決意します。
そして、圧倒的な力を誇るRev-9に対して唯一の対抗手段となるのがグレースの肉体を改造したエネルギー体でした。戦いで瀕死の重傷を負ったグレースは自らの命を賭けて、Rev-9対抗用の武器を捧げ、T-800はそれをRev-9に突き刺しながら自らが抑えとなって敵を破壊します。
未来を変えるために、大切な命を守るために自己犠牲を伴うこと。『T2』のラストでも見られた決着です。
グレースが命を賭けて守ってくれた自らの使命を決意し、普通の女性だったダニーは来たるAIの反乱に向けてサラ・コナーと共に準備を始めるのです。

ダニーは戦いを通して、いつか自分が人類抵抗軍のリーダーとなると知らされてもあまり現実感を持てませんでした。
突然、Rev-9の急襲によって弟を失い、父を失ったダニー。彼女は愛する家族を埋葬できなかったことを切実に悔やみます。その姿を見てサラ・コナーは葬式では人は生き返らないと吐き捨てるのです。
一見すると冷淡な一言。しかし、それは自身が人類の宿命を背負い立ち、多くの犠牲の元に未来を変えたサラ・コナーだからこそ言えた言葉だったと思います。
サラは自分が家族の死を背負うだけの存在ではなかったことを自覚しているのです。人類全ての死と未来を背負っているのだということ。あの時のダニーには、当然その覚悟はまだ芽生えていませんでした。

Rev-9との闘いにより、たくさんの死を受け入れたダニーは、自らが抵抗軍の指導者となる未来を受け入れます。
家族の死だけでなく、人類の未来を背負っている存在。今はまだ幼いグレースが将来的に現代に送り込まれて死なない運命を作り出すことができるのは、ダニーにかかっているのです。
新たに課された宿命を背負って立ち上がった姿に成長を感じるストーリーでした。