ニジム

小公女のニジムのレビュー・感想・評価

小公女(2017年製作の映画)
4.2
ああ、これは好きかもしれない。
あの「小公女」のリメイクか想を得たものかと思いきや、ほとんどその要素はなく。

家事代行をしながらギリギリの生活を送るミソは、それでも煙草とウィスキーと大好きな彼氏がいらば幸せ。しかし物価高には勝てず、煙草、家賃と大幅な値上がりがあり、熟考したミソは、家を出ることにする。

レジスターが家にあって、お札を入れるスペースに、税金、家賃、漢方薬で分けて入れているのがユニークでいい(小銭のスペースには100円ライターとか)。すごい律儀な性格がここに見えてくる。家計簿もきっちり付けて、収支のプラスマイナスも把握している。

家を出たあとはバックパックとトランクで昔のバンド仲間を訪ねて回るが、一流企業の会社員は無理を押して体を壊しながら猛烈に働いており(煙草を昔吸っていたことを指摘されると周囲に聞かれたらと慌てる。自己管理ができていないと見做されるのだろう)、新婚のはずの弟分は妻に捨てられ失意のどん底。彼に男性と住んでいるなんてと詰られ出ていくことにする。結婚して郊外で暮らす主婦は苦手な家事に追われ、家族には感謝もされない。両親と暮らす独身男の家族には大歓迎されるが(演奏と歌まで)彼の両親からは彼と結婚するよう仕向けられ気づいたら軟禁状態で這々の体で逃げ出す(ちゃんとお礼の書き置きをするのがまた律儀)。金持ちの家に嫁ぎ海外にいる義父母の目もなく悠々自適な暮らしを送る女は広すぎる家の部屋を喜んで貸すが、それもまた。ここには家政婦がおり、ミソがお礼に家のことをするというと離れたキッチンでピクリと怯え、女主人が「あなたはお客なんだから」と断ると明らかにホッとしたように体の力を抜く。ここが顕著だが、細かいところまで行き届いた演出で、そういったところも面白い。

また、様々な旧友と再会すること、彼らの家に入ることで、韓国(おそらくソウルやその近郊)の人々の生活を垣間見られるのもまた楽しい。韓国の現代社会も透けて見えてくる。

やっと落ち着くところもできたのでさらに仕事に精を出すも、新たな変化が彼女を待ち受けていた。

友人たちの様子を見るとミソは30代半ばではないかと思うけれども(ミソは若見え)、若白髪なのかな? 漢方薬で抑えているらしいが束で白髪がある。彼女は自分の大切なことを守るためには、何かを捨てたり犠牲にしたりすることを厭わない。トランクひとつ(バックパックもあるけど)で点々とするところは、『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーに近いしその清々しさはあるが、もっとしなやかだ。これは時代があるのだろうな。

大事なものを死守する彼女だが、決して他人のことを愚痴ったりすることがないのも、何か答えるときに相手のせいにせず自分の中におさめるのも、すごく格好よかった。口数少なく淡々と物事を受け止めているけど、その無言なところに彼女の物言わぬ葛藤が感じられてとてもよかった。文句を言わないということは他人に甘えず、自分のことを自分できちんと引き受けているからだ。淡々としているのは、彼女の覚悟の現れだ。余分な演出は必要無い。

都会ならギリギリ彼女のような生き方もできるのだろう。でも、冒頭もそうだったが、ソウルの冬は尋常じゃなく寒いだろう。彼女が無理せず生きていけますように。そういう世の中なら、多分、みんなにも優しい。

でも、ラストを見ると、あんなに好きだった彼とは結局はうまくいかなかったのかな。

なぜタイトルが「小公女」だったのだろうと考えたけど、元ネタ(?)も「小さな公女(身分のある家の少女)のように気高い」といった意味で使われていたと思うので、それでかな?
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