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運命は踊るの海のレビュー・感想・評価

運命は踊る(2017年製作の映画)
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結び目ばかりを気にしていたから、羽根が広がりすぎて不恰好になってしまった蝶々結び。まるで、そこに手紙の続きでも書かれているみたいに、あなたは背中を丸めたままで、その穴の向こうを覗き込む。砂をかぶった古いコンピュータがコゥゥと独特な音を立てて唸る、あなたの青白い太ももに絆創膏が浮く、たとえば花束を贈るとか、簡単な手紙を書くとかで、後悔は幾らだって花の咲かないうちに摘んでしまうことができた。いま、わたしとあなたで消せない記憶に火を灯して、いつまでも答えの出ない問いかけを繰り返している。あなたの笑った顔ばかりを、ずいぶん長いあいだ見ていたから、鏡に映った自分の顔が、まるで自分じゃないみたいに遠く感じるの。その目はやわらかく頬の上で漂い、くちびるの端には幾つもの波が立ち、そして波の終わりが裏返るように、小さな歯がのぞいていた。思い出せなくなるころに、思い出は消えてしまう。それでも、悲しみと幸福と痛みと心地よさのいりまじるこの場所も、できたことの先ではなく、できなかったことたちのその先にだけ存在する、小さな乾いた踊り場。あなたが手を伸ばすなら、わたしは何度でも強く握り返す。それが天に向かって伸ばされたものでも。わたしたちに語れるものが、海の匂いの記憶しかないのだとしても。消えてしまった思い出と引き換えに、忘れることのできない夜が、わたしたちにはあった。
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