Tラモーン

迫り来る嵐のTラモーンのレビュー・感想・評価

迫り来る嵐(2017年製作の映画)
3.8
お久しぶりの中国作品🇨🇳


1997年。田舎町の国営工場で警備員として働くユィ(ドアン・イーホン)は工場内での窃盗事件の検挙率の高さから「ユィ名探偵」と評され得意になっていた。そのころ、工場の近くで若い女性を狙った連続殺人事件が発生。事件を担当するジャン警部(トゥ・ユアン)に些細な協力を求められたことに舞い上がったユィは刑事気取りで独自の捜査を始める。


なかなか不気味で重たい仕上がりの中国サスペンス。韓国映画の傑作『殺人の追憶』に似た感じなのかなと思いきや(似ているところもあるが)、90年代後半の経済変革期の中国の閉塞感を、1人の男の暴走を通じて表現したような仕上がりになっている。

特に主人公が刑事ではなく「刑事気取りの工場警備員」というところがミソになっていて、工場内での治安維持という小さな世界で生きているユィは未来のない生活に希望を見出せず、せめて自分の工場内での実績を賞賛されたいと強く願って生きている。そのコンプレックスこそが今作の歪んだ正義感の暴走に繋がっている。

ジャン警部に煙たがられながらも、少しでも情報を得て捜査をしたいユィはこうゴマをする。

"あなたは立派な人生を送ってる。おれはダメだ"

言葉の裏には謙遜ではなく、自分の才能に少しでも気付いてもらいたいという欲求が垣間見える。

"自分が何者かわきまえるんだ"

それでも相手にされなかったユィの行動は暴走し、やがて取り返しのつかない事態を引き起こしてしまう。

終盤追い込まれたユィが凶行に走るシーンの時系列を変えた表現が好みだった。残忍で理不尽で一方的な凶行の引き金となった出来事を後から提示する見せ方はとても後味が悪くて上手いな〜という感じ。
やり切った笑顔からの手錠をかけられ泣く演技の振り幅がなかなかよい。

イェンズを演じたジャン・イーイェンの悲しげな演技が説得力を高める。

夢を見ようにも何が自分の夢なのかすらわからない人生。そんな閉塞感が90年代末期の中国にはあったのではないだろうか。

上映時間の約9割5分、ひたすら降り続く雨の鬱々とした映像表現は見事。一向に晴れる気配のない寒々しい冬の雨と、怪しい人物が皆黒のレインコートのフードをかぶっていて顔が見えないところも不気味さが継続して上手い。

事件の結末以上に不気味な余韻の残る、廃屋となった工場講堂でのシーン。涙目で黙りこくるユィが可哀想であり、底知れない不気味さも感じてしまう。

なかなかの良作でした。
Tラモーン

Tラモーン