糸くず

老いた野獣の糸くずのレビュー・感想・評価

老いた野獣(2017年製作の映画)
3.6
第30回東京国際映画祭にて。アジアの未来部門スペシャル・メンション受賞。

演出・脚本・演技に無駄がなく、完成度が高いことは間違いないが、身勝手で粗暴で自堕落な老人の醜態を延々と見せられるのが辛い。演じるトゥメンの顔は魅力的だが、それだけではキツいものがある。

妻が倒れても、風俗に行き、愛人の家でいちゃつく。友人から預かったラクダを肉屋で解体してもらい、愛人に「牛肉」として渡す。妻の手術費をくすねて、友人のために乳牛を買う。息子たちに痛めつけられた腹いせに、裁判所に訴え、息子たちを犯罪者にする。家族を思って行動する瞬間もあるが、だいたいは自分勝手な行動で家族に迷惑ばかりかけている。

こんな人間に「共感」あるいは「感情移入」するのはかなり難しいと思うので、この父親の物語は単に父と家族の関係を描くこととは別の目的があるのだと考えざるをえない。わたしは、この老いた父親は無茶苦茶なやり方で急激な成長を遂げたあとに急激な老いを迎えるであろう中国の皮肉に満ちた肖像画であると思う。というより、そう考えないと、この不快で愛し難いキャラクターを主役にした映画を作る意味が理解できない。

このように無理矢理こじつけたところで、面白くなるかというと、それもまた微妙だけども。
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