糸くず

ポーカーの果てにの糸くずのレビュー・感想・評価

ポーカーの果てに(2017年製作の映画)
4.2
第30回東京国際映画祭にて。

「デモを題材にした密室劇」と聞いて、モハメド・ディアブの傑作『クラッシュ』のような有無を言わせぬ推進力で圧倒するパワフルな映画を想像していたのだけど、そうした期待をいい意味で裏切る老練な映画だった。監督デビュー作とは思えないくらい演出・脚本ともに巧みで舌を巻く。

外の喧騒と怒号に背を向けて部屋の中でああだこうだ言い続ける男たちのどっちつかずな振る舞いに苛立ちと腹立たしさを覚えるのもわからなくないけども、わたしはツイッターで悲惨な社会の有り様を眺めては嘆息しつつも具体的な行動はしない自分の姿を終始見せつけられているように感じ、彼らの醜態に爆笑しつつも、その笑いの矛先が自分にも向かっていることに気づくと、居心地の悪い気分にもさせられるのだった。

扉の前で「携帯を充電しなきゃ、ツイッターができない!」と言って外に出るのを止める男の前に宅配ピザ屋のおっさんが現れるとこなんて、ユーモラスでありながらも後で強烈に効いてくる毒々しさがある。

ニヒリズムに陥ることに警報を鳴らしつつも、何か一つの理想を信じることは到底できず、自らの無力に打ちひしがれ、右往左往するのに疲れ果てた平凡な市民の憂鬱がにじむ。それでも、どこにも身の置き所がないことを引き受けながらも悪あがきをしてみるラストに、監督の意地のようなものを感じた。この監督の次回作が早く観たくてしょうがない。
糸くず

糸くず