たわらさん

リズと青い鳥のたわらさんのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.7
希美から見たみぞれは数多ある友人の1人であり、みぞれから見た希美は救世主であり依存に近い感情を持ち合わせていて、この2人の関係性は如何なものだろうか、と思っていたのがシーズン2の所感であった。だが、本作で明らかになったのは、希美はみぞれからの愛を手放さず引っ張られており、相互に依存の矢印が向いていた。目線が合うことのない危うい依存関係からの解放がテーマであり、その渦中で傷付きながらも前進する青春劇である。

合奏演習を通して希美は執着から解放されて、みぞれは想いを言葉にするようになる。この変化は、各々が自己完結していた関係性も2人が素で向かいあうことを表す。そして、共依存の泥沼化することなく適度な距離感を保ち、みぞれは新たな出会い、希美は新たな没入先の予兆を感じさせる。各々が囚われていたモノから解放されて鳥籠から羽ばたいていくことは、校舎から飛び出る事から示唆される。

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ペアであることから故の多少の不和に耐えられない両者の苦悩がいじらしい。プールへと誘う時に拒絶されているのではないか、と不安になり咄嗟に別な人を誘う希美の動揺。"のぞ先輩"という理想の仮面を被っている希美に本音を打ち解けられる人はおらず(中川とゆうこには多少程度)、動揺と不安が蓄積されていく様が切ない。

心理変動を行わせる映像ほど、意識外になる教室内の何気ない雑談などに暗喩を潜ませる演出の巧みさ。文学的な作品であるのに作中の数学の授業で整数論を扱う洒落さといったら。あらゆる描写と台詞に無駄がなく、観るたびに発見のある山田作品の最高傑作。
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