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あさがおと加瀬さん。の都部のレビュー・感想・評価

あさがおと加瀬さん。(2017年製作の映画)
3.0
漫画から短編映画を作るにあたり時として危惧されるのは尺に応じる形での内容の単純化であるが、本作は原作の3つのエピソードを題材として作品の中で三幕構成の形を取っており、二人の関係性のエモーショナルな部分を適切に抽出することで不足の少ない映像作品に仕上げている。

お互いに他人との交際関係は初めてである二人の恋愛模様は"恋人"という存在が自分に齎す心的な満足感に浮かれたそれであるから愉快で、耳年増な加瀬と逆に年齢不相応な振る舞いが目立つ山田による押して押されてのダイアローグは可愛らしさに溢れている。加瀬の内なる恋人に対する性欲が隠せてない挙動の数々がなかなか好ましかったですね。

そうした透明度の高い交際関係が成立する世界観は水彩画調の淡い作画により形成されており、鼻腔を擽るような甘い匂いを感じさせるそれであったり光彩で二人の構図を鮮やかなものに見せるためだったりと、人物を際立たせる為の美術周りの凝り方もよく出来ています。

翻って人間の挙動に関与する演出は甘々な百合の雰囲気を描こうという過剰な指向性が見られるためか鬱陶しさを感じさせるもので、ただそこに存在している一人と一人の等身大の距離関係の純度を落としているとも取れるのがややノイズか。

またエピソードの中心となる二人の葛藤も月並みなものが多く──ジャンル物にふと手を伸ばせば他の作品でも触れられるような──物語としての面白さは低空飛行の様相を呈しており、その題材の普遍性はともかく描き方/問題に対する距離の詰め方に独自性を感じる部分があまり見られなかったのも気になる。浴場を巡る同性関係と交際関係のせめぎあいの下りが唯一良かったくらいで、あとは予定調和めいたものが多かったのは物足りなさがある。60分の短編映画と考えると、平均的な水準は満たしていると言い切れる完成度ではあるようには思う。
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