けーはち

アクト・オブ・キリング オリジナル全長版のけーはちのレビュー・感想・評価

3.9
インドネシアで起きた虐殺の実行犯が自ら英雄的な目線で再現映画を作る様子を撮るドキュメンタリー映画。50年前、スカルノ大統領の下でクーデター発生時、「プレマン」というヤクザ集団が民兵化、共産主義者狩りを遂行。当時の政権では英雄視され、今も彼らは誇りに思っている。それを改めて喧伝する映画として撮影を持ちかけた形の企画。映画好きで饒舌、動物や孫を愛でる主演の老爺のごく普通の日常と並行し、生々しく拷問や殺害の方法を語りながら一所懸命に再現映像の撮影に励むが、制作が進むにつれ、ある時ついに彼は自らの所業にドン引き、嘔吐を催すに至る。半世紀近くの時を経ても不変だった人間の価値観が映画の中で明確に変わる瞬間を活写する強烈な一本。全くヤラセなしとは断言できぬまでも、スタッフロールの「匿名」の連続は今なお本件が現地人の嫌厭するところを物語っており、そんな中で堂々と主演、己の正義を信じて疑わぬ彼が心境の変化を起こす様子は実に壮絶である。