エイコ

港町のエイコのレビュー・感想・評価

港町(2018年製作の映画)
3.9
想田和弘監督のドキュメンタリー映画。

過疎化が進み、猫ばかり多い瀬戸内海のとある港町。
監督と妻(制作者)の二人が、脚本もテーマも作らずに、数日間この街に泊まり込んで目に映ったものを撮影し、一本の映画にした作品。

想田監督作品は大好きで、監督の作品を観たのは6作目。
でも最初の30分くらい、「あれ?こんなに淡々としてたかな?」と困惑するくらい、港町に住む人々の生活がゆったり映し出されていて、正直ちょっと退屈に思えるほどだった。

だけどいつの間にか、いつもの想田作品と同じように世界観に引き込まれていた。

80代で小舟で魚を獲るおじいさん(Yちゃん)。市場で魚を卸し、パッキングして街の人々に配達するパワフルなおばさん(70代だけどおばあさんとはいいがたい)。その魚を買う人々。雑魚をお店からもらって、野良猫たちのご飯を作る夫婦。その取材中、たまたま通りがかった急な坂を上ってお墓参りに行くご婦人…。

この街の人の営み、そして繋がりを通じて、もっともっと大きな世界の構造が見えた気がしてハッとした。
今私が手にしているものすべて、こうやって誰かの手を通ってここに来たんだっていうこと。当たり前の大切なことなのに、どうしても忘れてしまう。
そして、そんな当たり前のサイクルを続けていく中で、いつか終わりを迎える。

でもやっぱり強烈な印象を残すのは、この映画のジャケットにもなっているおばあさん。
外見の印象から、小柄で柔和なおばあさんだと勝手に想像していた。
だけど、全然違った。
Yちゃんが仕事をする傍らに野次馬のようにやってきて、大きな声であれやこれやと話をする。きっと、想田夫妻が優しく耳を傾けてくれるのが嬉しかったんだろうな。

毎日同じ格好をして(いるように見える)、同じような話を何度もする。その上、目の前にいる人の悪口を平気で言う。
野良猫の耳を乱暴に引っ張ってカメラの前に出した時には、小さく悲鳴をもらしてしまった。

先ほどの町人たちの繋がり、サイクルからはじかれているように見えるかなり異質な人。
こういう人、昔どこかでいた気がする…。私には無理かも…。

だけどとある瞬間、視点がひっくり返された。
おばあさんの語ったことが、どこまで本当かは分からない。
だけど、私の安易な決めつけを恥ずかしいと思えるほどの力が、その語りにはあった。

人間は、単純じゃない。
その人の背景にあるものを、もっともっと想像できるようにならないとなぁと思った。

想田監督の映画は「観察映画」で、ナレーションも音楽もないけれど、意図がないワケではない。完全にいつだって誘導されている。
世の中を途方もなく優しい眼差しで見つめながら、世の理を映し出し、こちらに問題提起を突きつけてくる。
見終わった後は、いつもなんとも言えない気持ちになってしまう。

久美子さんやYちゃん、その他の皆さんも、この映画に出てくれて本当にありがとうって言いたい。
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