蛇々舞

劇場版 Fate/stay night Heaven's Feel II. lost butterflyの蛇々舞のレビュー・感想・評価

4.3
濃密。
あまりに濃密な二時間だった。

自分は、青春のある時期にFateにドップリ嵌まった1人である。
夏休みの多くをPC前に座ったまま過ごし、秋学期は夜が更けるまでマウスをクリック、寝不足のまま通学していた。

映画を観ていて、その感覚を思い出すなどしていた。

とにかく中身の詰まった人間ドラマ。
スローモーションを多用して、モノローグを被せ、また繊細な表情芝居と間で以て、登場人物の感情を、これでもかと伝えてくる。

ノベルゲームを原作としながら、台詞での説明に寄り掛からず、芝居と映像で語る手管は素晴らしいの一言。

特にファンシーな表現で戯画化してみせた“あのシーン”などは、鳥肌ものであった。

加えて、トゥルーエンドへ真っ直ぐに突き進みつつも、途中のノーマル(バッド?)エンドの可能性を映像化して挿入してくれるなどの演出は、ゲームファンとして感嘆するほかない。

あの長いシナリオテキストを、見事に映像作品として翻訳、昇華しているのだ。
スローテンポに感じられる点も、もともと前2ルートに比して淡々と推移していく、水面下の激しさこそがヘブンズフィール・ルートの醍醐味だと思えば、それを見事に再現していると言える。

全体的には、日常描写が多め。
(これだけでさえ劇場版ならではのクオリティ。Zeroでは静止画、UBWではCGだった通行人も、全て手書きで動き続ける)

そして、そのおかげで、ポイントとなる戦闘シーンのスピード感と迫力が、いっそう際立っている。
爆発に次ぐ爆発、しかし、その中にも英雄らしい駆け引きが見て取れ、決して大味だけに終わらない凄まじい戦い……これだけでも1800円で、お釣りが来るだろう。

そして、何より素晴らしいのが、そんな本作最大のスペクタクル・シーンを、大胆にも中盤に配置していることであろう。
あくまでストーリーのベースにあるのは、メインヒロインである桜と、その心情・精神の変化なのである。

愛らしく、けれども恐ろしく、優しくて残酷である。
つのる女の情念に、胸が苦しくなる……。

どれだけシナリオを読み込み、深く理解すれば、ここまでの描写が叶うのだろう?
特に1章から続く、士郎と桜、士郎と慎二の関係の描写は十二分だ。

単にゲームの実写版としてだけでなく、1つの映像作品としても、かなりの出来なのは間違いないだろう。

アニメ的なハッタリの効かせ方も最高で、冒頭の狭い図書室の戦闘シーンなどは、決して実写では真似できない空間の使い方になっている。

唯一の不満があるといえば、人物のバストアップと、対峙する両者をロングショットで映すという、深夜アニメにありがちな節約技法が、ここでも目についてしまう点だろうか。
もう少し一般映画的な手法を凝らして、画面そのものに意味付けを与える試みがあっても面白かったのではないかな、などと感じた。

まぁ、そこまで微に入り細を穿てば、とても1年では完成しないだろうな、などとも思いつつ……。

なんにせよ、大満足である。
早くも来年の、最終章の公開が待ち遠しい。

叶うなら観賞後、満開の桜の木を見上げられる時期に観たいですね。






※ここからは愚痴です。
回れ右を推奨いたします。








声優陣の芝居にも力が入っていて、聞き応え抜群だ。

しかし、イリヤスフィール役の門脇舞以さんの演技には、個人的に苦言を呈したい。

もちろんディーン版当時から続投してこられ、プリヤ等の作品なども経て、もはや他の役者によるイリヤなど考えがたい。
もはや完全にイメージに嵌まっている感があるし、実際、とても魅力的なお声をお持ちの方である。

しかし、ベテランではあるものの、声優としての技術が達者な方ではない。

それが、この作品においては、ことさらに響いているように思えてならない。

もちろん、シーンの空気に敏感に反応し、即座に声のトーンをコントロールできるのは、さすがプロだと思う。
士郎らと接するのと、間桐臓硯と相対した際との演じ分けは、その好例である。

けれども、彼女の芝居には、まるで動きがない。
アニメのイリヤスフィールが目を輝かせ、イキイキと跳ね回れば跳ね回るほど、ただただ一本調子に落ち着いた台詞を語る門脇さんの声が解離するのだ。

これが動画枚数を押さえるため、あまり動かないテレビアニメであれば、まだ違和感は少なかったろう。

けれども劇場版として、破格のリソースが割かれた動画においては、その齟齬が致命的なまでに広がってしまった。

走り回り、士郎に飛び付き、戦いの余波に突っ伏しても、全く揺らがない、動きの乏しい語り。

正直、その都度に作品への没入を妨げられた感があった。

門脇さん本人の演技センスもさることながら、音響監督は、なぜこれを指導しなかったのだろう?

型月作品は、同じ声優を他役にも登用する傾向にあるから、長年の付き合いと今後の関係を考えて、リテイク指示に躊躇したのだろうか?

全ては邪推にすぎないが、ともかく、音声としての表現は、決して充分ではなかったと思う。

芸能界はコネが重要だけれども、もしも、そのせいで制作現場がなあなあになることがあるのなら、それは、勿体ないことだなと思った。
蛇々舞

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