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長江 愛の詩のmajiziのレビュー・感想・評価

長江 愛の詩(2016年製作の映画)
4.0
全然面白くなさそうと思ったけど秦昊(チン・ハオ)と辛芷蕾(シン・ジーレイ)が出演なので観ました。

しかし撮影監督が李屏賓(リー・ピンビン)だと知って得した気分。
画面がずっと美しくて見惚れてしまいました。緩やかに動くカメラと一緒に船に乗りながら長江をたゆたう気分が味わえます。
リー・ピンビンは宮川一夫と同じぐらいその名で映画の格を上げてしまう凄腕だと思う。どの作品もたとえ内容がカスでも映像は鳥肌、ため息もの。それだけで満点。

物語は虚構と現実が入り乱れて幻想的。タルコフスキーのような芸術作品でした。
これは人によっては退屈と感じて寝てしまう系の作品だと思います。
唐突に人が死んだり、禅問答みたいな会話や神出鬼没で会うたびに人が変わる謎の女性。

ストーリーを追うというよりも、長江という中国を語るのに悠久の歴史と壮大な風景を持つ完全無欠な存在を感じる作品。

亡くなった父の詩と長江の地図をたどりながら時間を遡っていく主人公。
どんな立場であっても人は思いの丈を綴ることで詩人になる。
それが切実であればあるほど。

もっともらしいことを書いているようでほぼ愚痴に近い詩なのに、その瞬間を真剣に苦悩しながら生きた人の生々しさが伝わり、厳しい自然の中で過ごしている人生観が滲み出る。

1989年という意味深な符号と、長江源流にあったお墓の意味とは。
源流の場所はもはや中国ではない異なる民族の極寒の土地。
自然に国境は無く、ただそこにあるだけ。

喪失と共に生きる人生。
変わりゆく長江はどこまでも広い。
ラストに流れる映像は、どの台詞よりも説得力を持ちながら物語を締めくくります。
この瞬間だけをみても伝わらないことが、作品の全てのような気がしました。
好みが分かれそうだけど、個人的には好き。
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