都部

海へ行くつもりじゃなかったの都部のレビュー・感想・評価

3.5
自分の人生に関与しないはずの他人との奇妙な交差に対するロマンチズムというのはあると考えていて、その一瞬の交差はそれが一瞬であるからこそ無二の価値があり、良くも悪くも『身内』という括りで完結する雁字搦めの人間関係にはない味をその人に齎すというのはなんだか救いのようですらある──そんな関係性の尊さと海なるエモーショナルの象徴とも言える地を付け合わせることで、その相乗効果を映画として形にしているのが本作『海へ行くつもりじゃなかった』である。

あくまで麻来とリナの二人の関係性は気薄なものであり、人生に行き詰まった二人がなんとなく海に足を運び、そこで開放感を得て日常に回帰していくという飾らなさがこの場合は良かった。
二人はお互いの名前すら知らず、恐らく今後一生顔を合わせることもないのだろうという確信すら持たせる幕切れは、しかし二人の満ち足りた表情をもってしてそこにたしかな価値を主張する。

こうした感傷的な物語に『海』を位置させるのはやり過ぎとも言えて、語り方次第では安っぽく思えてしまうというのもあるのだが、本作は良い意味で作家性が純化された作品としてそれが出力されており、余分を取り払い最適化されたことで、結果として余白を残すショートフィルムの味を上手く取り扱ってるのが目立つ。

飾らない物語に飾らない語り口が綺麗に重なるのはやはり心地が良いように思う。強いて言えば、凧、パントマイム、証明写真というアイテムをただのアイテムとして消費するのは自然な形に寄りすぎなきらいがあり、短い作品だからこそ、そこにモチーフとしての物語との結び付きがあれば……という感じはあった。素体としての美しさを否定する気はないが、これが『物語』であるならば外装を添加させるのは不純とは言わないだろう。
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