垂直落下式サミング

ヘドローバの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ヘドローバ(2017年製作の映画)
4.5
『全員死刑』や『孤高の遠吠え』の小林勇貴監督作品。前編スマホの動画撮影機能で撮影した低予算ご当地エクスプロイテーションだ!B級チープで低俗下品!かなりトロマい!
実際に手探りしながら作っている映像の野蛮さは、淫らでいかがわしい雰囲気を醸し出すが、被写体を見つめる目線は妙にリアル。はじめて見る場所なのに、その団地の住人になったかのような心地よさ?安心感?いや、どれとも違うが、何だか実人生に密接したものを感じる世界観である。
生活感のある空間でトンデモナイことがおこるのを手持ちカメラでとらえたドキュメンタリックな衝撃と、それでいて堅実な劇映画を目指している手堅いカメラアングルの映像が往来し、記録映像とジャンル映画のちょうど中間くらいの感じに仕上がっていて、これがまた魅力的で不思議と惹きつけられる。
素人の方も演者として撮影に協力しているようだが、みなさん演技が上手くてビックリしてしまった。プロも素人も一様に何言ってるかわかんない時があるので、これは録音機材とかの問題かもしれないが、そんな環境でもちゃんと面白いものがつくれることがスゴイ。
『孤高の遠吠え』でも、かなり格好よかった暴走族のシーンは、闇雲にエンジンをふかして夜道を族車のヘッドライトの光がかなりのスピードで前に後ろに乱反射する超綺麗な絵になっていて、ここだけ異世界を覗いてみているような外連味のあるシーンになっている。
何はともあれアホ映画である。映画の見所は、これでもかと映しだされる下劣で野蛮な場面。ガキを本気でひっぱたく児童虐待をとらえた長まわしや、キチガイに追いかけられ対峙する様子、老若男女がゲロを吐き、チンコマンコは大写しになるし、放送禁止用語・差別用語は普段から口にしているような自然さで連発され、パジャマ姿の男女が首を吊られ歩道橋にぶら下がっているショットなどはスナッフフィルム的でギョッとさせられる。しかも、銭湯ではフルチンアクション!ちっちゃい!でも、ババアは可愛い。おばあちゃんの誕生日には不良やチンピラでも優しくなるので、なんだかほっこりしてしまう!
「危険なこと=面白いこと」だって、子供みたいな感性のサービス精神メガ盛りで景気がいい。なにより、タブーとされる題材を映しておいて、どうだ!すごいだろうと自己満足に終わってしまうような「問題作」を目指しているのではなく、人を楽しませるエンターテイメント作品を撮ろうとしている姿勢に好感が持てるし、DQNと文化系のあいだを繋ぐ貿易商のような特別な立ち位置にいるこの映画の製作者たちを応援したい。
映画のヒエラルキーとしては、かなり低いところに位置付けられる作品なのは否定しないし、そういう下品で安っぽいもの、あんまり育ちのよくないもの、こういうのがたくさん出てくるが、この淀んだ地平から何か現代社会が抱えている病理のようなものが沸き上がってくると思うし、このような映画でしか見せられない世界があると思う。
こんな作品を観続けていきたい。