あんがすざろっく

ゲティ家の身代金のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

ゲティ家の身代金(2017年製作の映画)
4.5
御大リドリー・スコット最新作。

結論から書かせてもらえば、一瞬たりとも飽きさせない、魅惑的な作品でした。

最初観る前は、このシンプルな設定で、どれだけの展開が観れるのかと半信半疑であったが、いや、御大が撮ったんだから、何かしら得るものがあるはずだ、と自分を納得させました。

公開前の様々なスキャンダラスな話題を抜きにして、一点の曇りもない完成度。
本当にこれが公開ギリギリにキャストを交代して、再撮影して出来上がった作品なのか。

リドリー・スコットの作品は振れ幅が大きくて、作品ごとに好き嫌い分かれるんだけど、嫌いな中にも常に何か引っかかるものがあって、だから僕は彼の作品をずっと追いかけ続けてます。

リドリー・スコットと言えば、一般的には「映像派」と評される監督ですが、それはやっぱり「エイリアン」「ブレードランナー」のインパクトが強烈だからでしょう(個人的には「ハンニバル」での闇の映像の奥行きも素晴らしいものがあったと思いますが)。僕はリドリー・スコットは、「職人」だと思ってます。
本作を観て、改めて感じました。

この作品、描き方によっては、痛烈なブラックコメディにもなり得たと思うんです。
だって、孫が誘拐されたっていうのに、身代金は払いたくないわ、でもその裏で名画に大金ポンとはたいて、笑みを浮かべる大富豪って、あまりにも皮肉が効いてますよ。
まぁ実話ですから、笑い話にもならないけど、世界仰天ニュースなんかで取り上げられたっておかしくない。
もしかしたら、もう取り上げられてた?

脱線しましたが、そこを御大は凄まじいまでの執念と、ぶれない視点で、どっちつかずにもならない、極上のスリラーに仕上げてしまった。

ここからは、悪魔でも僕の仮定なんですが…。これ、もしかすると、ゲティがケヴィン・スペイシーのままだったら、シニカルな仕上がりになったかも知れない、と思うのです。
彼なら、ゲティは冷酷なキャラクターに描かれたんじゃないだろうか、と。
それはそれで観たかった。
冷酷で非情であればあるほど、ゲティの人間性がブラックユーモアに映ったんじゃないかな。

でもゲティにクリストファー・プラマーを据えたことで、作品の違う面が見えてきた。
プラマーはメイクせずとも、実年齢に近いゲティを演じられたし、その悲哀に満ちた眼差しの中に、ゲティの孤独であるとか、倫理観、人間性を込めることができた。
それを見抜いたリドリー・スコットが、スペイシー版ゲティの描き方を一度捨てて、プラマー版ゲティにぴたりとはまる作風に仕上げたのではないかと。
作品をより良く仕上げる為に、皮肉さやユーモアを削ったんじゃないか、と。
重ね重ね、これは僕の勝手な妄想ですよ、実際スペイシー版も観てないんだから。
でも僕は、スペイシーなら、そんなアプローチをしたのかも、とチラッと思いました。
だからこそ、作品の仕上がりを見抜いて撮影したリドリー・スコットを、職人だな、と勝手に考えたんです。支離滅裂な発想と妄想ですいません。
プラマーが助演?そんなことを微塵も感じさせない、圧倒的な存在感。
ですが、確かにプラマーは助演です、主演はやはりミシェル・ウィリアムズですから。
本当に素晴らしかった‼︎
そう、本作がブラックユーモアにならなかったのは、ミシェル・ウィリアムズ扮するゲイルを物語の中心に据えたから。
そりゃ、非凡なゲティをたくさん描いた方が、物語はもっと盛り上がりがあったでしょう。
ですが作品は、見た目の派手さより、堅実な作りと主人公の心情変化で構成され、どの場面も目を離せない、抗い難い魅力に溢れている。
リドリーお得意の残酷描写も、本当に目を背けたくなるが、そこも含めて、見事としか言いようがありません。
やはり御大は、凄い監督だ。
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