ーcoyolyー

リヴァプール、最後の恋のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

リヴァプール、最後の恋(2017年製作の映画)
3.8
私、明日、イザベル・ユペール様の新国立劇場での『ガラスの動物園』急遽行けることになったんですよ。
元々はクロノス・クァルテット演奏のスティーヴ・ライヒ『Different Trains』がオペラシティで聴けるとあってそちらのチケットを取って楽しみにしていたんです。そんなある日、Filmarksのレビューページからイザベル・ユペール様のページに飛ぶと近々来日公演があることを知って、え?いつ?どこ?ふぁ?新国立劇場!?オペラシティとほぼ同じ建物じゃん?それで日程一緒?マチネソワレで掛け持ち行ける?あぁこの日は公演が同じ時間帯で丸かぶりだ残念、パニック障害持ちが新宿に出られるのはせいぜい週に一度だし諦めるか…となっていたら数日前突如ヴィザの都合でクロノス・クァルテットの来日全公演中止お知らせメールが届いて、ふぁ?ユペール様の新国立劇場の『ガラスの動物園』行ける!?と慌ててチケットを押さえた次第です。
そんな事情ですので予習が行き届いておらずアマプラで『ガラスの動物園』検索したけど引っかからないしユペール様の未鑑賞作品もちょっと気分が違うかなまあいいや配信終了直前映画からこれ観るか、と再生ボタン押したの。

そしたらさ、この映画のファーストショットが『ガラスの動物園』だったんだよ……………なんだこれ…………………………

私なんでこんなに導かれているというかむしろ逃げ道を絶たれる形で『ガラスの動物園』に追い込まれてるんだろう。一体そこに何が待ち受けているというのか……………………………………


前置きが長くなりました。本編に入る前に恐怖というか畏怖というかとにかく余りの衝撃で気持ちを立て直すのに時間がかかった。作品自体はね、アネット・ベニングが良いのは皆さん想像できているでしょうけどジェイミー・ベルがそのアネット・ベニングとタイマンで渡り合っていて凄いなと思います。でも私この映画、アカデミー助演女優賞取ったグロリア・グレアムの実話を元にした作品だと全然気づかなくて、老境に差し掛かった一般女性と同世代の昔の恋人の話かと思っていたので邦題は『リヴァプール、最期の舞台』みたいな方が良かったんではないかな。映画って大体恋してるからそこ強調するより個別案件の特殊事情として舞台とか役者とかそういう要素入れた方が良かった気がする。

グロリアは品があってチャーミングで少々世間知らずで少女っぽさと大人の女性っぽさがいい感じにミックスされたおばさんとおばあさんの間くらいの年齢の人で、まあこれなら若い男性が惹かれるのもわからなくはない、というキャラクターでアネット・べニングの味付けも程よくて、だから切なくもなりましたね。最早自分がそちらに近い境遇となっているので、私の目にはこの初老女性がチャーミングで若者が恋をしても説得力があるようには見えているんだけどそれはこの立ち位置の人間の身勝手な願望混ざってないかと。自分に都合良く解釈しすぎてはいないかと。若い人から見て痛々しい40代女性になっていたら怖いなと。若い男子にいちいち確認するグロリアの気持ちわかってしまうから笑えないなと思った。若い頃なら無邪気にそして残酷に「そんなに気にしないでもw」くらいで流せることだともわかるんだけど、やっぱあのシチュエーションだと気にしてしまうよね。

そういうお年頃の女性を相手にするジェイミー・ベルの包容力と青さの出し方も絶妙で、私が今まで観てきたジェイミー・ベルってもう『リトル・ダンサー』からずっとオラついている若者だったので途中まで勝手に「絶対どこかでキレられる!」と緊張していたのごめんなさいってなった。私ずっと成田凌とジェイミー・ベルが出てきたらその瞬間にオラついたキレる若者のレッテル貼りすぎてたごめんってなった。偏見良くないね。ジェイミー・ベルこんな役もできるんだな。この役、地味に難しいと思うんだけどちゃんとしてた。ちゃんと誠実な売れない役者だった。売れない感が物凄く売れない感あってこの人上手いんだな、ってわかった。人間としての軸がしっかりある二人の恋愛なので、すねかじりのヒモ的なものが微塵もなくて、世間の偏見がどうであっても落ち着いた関係を築けているのしみじみ良かった。こういう人なら看取ってほしい。この人じゃないとできないだろうから頼りたい。そう願うのよくわかる。それまでの四度の結婚はきっと皆業界人でこういう時頼りないんだと思う。地に足をしっかりつけている(から売れない)元恋人に頼るのわかる。彼の家族も平凡だけど人間として欠けたところのないバランスの取れた人々で、その温かみに囲まれた日々いいな。憧れる。弱った自分を見せても平気なのはこの家族だけだったんだろうというのもわかる。こういう人たちに囲まれて静かに暮らすのずっと夢見てたんだろうな。死ぬ前にその夢を叶えることができて良かったね、と声をかけたくなりました。

聖人というものは、思いもかけず普通に目立たず暮らしているものです。そういう市井の聖人に私も甘えて暮らしてみたい。
ーcoyolyー

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