HicK

プーと大人になった僕のHicKのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
4.4
《"背景、大人になった自分へ"が心に突き刺さる》

【大幅な設定変更】
アニメーション版では「100エーカーの森」はクリストファーの想像の世界。本来、プーはクリストファーがおもちゃ遊びをする中で作り出したイマジナリーフレンドであり、寄宿学校に入学するため心の中で彼らと一緒に準備をする空想劇だった。しかし今作は誰にでも行ける実在の異空間というリアレンジがされている。プーの存在を大きく揺るがす変更に否定的な意見があるのも納得。それでも「あの頃の自分が今の自分を見たら…」という今作の要素がかなりグサッと心に突き刺さった。

【アンジェラ・アキ】
少年クリストファーから様々な事を学んだプーは、大人になった彼に「少年クリストファーの教え」を教える。プーを介して幼少期と大人のクリストファー同士が向き合っているような姿から、自分はアンジェラ・アキの「手紙」を連想した。クリストファーは間違った道を歩んでいる訳ではないが、子供の頃の自分に今を見せるとなると、まず言い訳から入ってしまう事に痛く共感。そうせざるをえなかったと。無論、あと2日で部署が潰れるなんて言われたら…。だからと言ってプーの可哀想な立場は変わらず、悔しくなる。子供の頃の自分に胸をはりきれない大人のもどかしさ。痛い 笑。

【プーと僕、逆転した関係性】
アニメではクリストファーが神様に見えた。でも今作はプーが神様に見える。また、プーたちをいつも助けてくれた少年クリストファーに対し、今回は彼を助けようとするプーたち。そして、自分が子供だった頃はクリストファー目線で見ていて「プーってワガママでバカだな」としか思っていなかったのに、今作はプー目線で見てしまう。「クリストファー、お前はバカか!?」と。そんな全ての要素が「逆転」しているのが面白くもあり切なくもある。少し視点はずれるが、クリストファーが最後に会社に提案するアンサーも普通に考えたら簡単すぎる答えなのだが、そこも含めて「逆転」や「本当に大切な事」というテーマに綺麗にハマる発想だと思った。

【昔と違う不憫さ】
前から結構不憫なキャラとして描かれていたプーだが、今作では意味合いが違う。激動の時代に変わるざるおえなかった父クリストファーと、当時のヒーローのような少年クリストファーを待っている100エーカーの仲間たち。そのすれ違いのせいでまたもや不憫。劇中はアニメのオマージュが沢山散りばめられており嬉しいが、それ以上に昔と意味が違う所には悲しさを感じる。そして時々くるプーのアップショット…。「なんだ?その目はなんだ!?」と、無機質なぬいぐるみだからこそ勝手に感情を想像し、勝手に涙ぐんでしまう。あざといディズニー。

【トイストーリー】
「トイ・ストーリー3」でも扱われたが、今作も同様に「ファンタジーなのに現実的に残酷な状況」「もっとも恐れていた事態」というタブーを突き破ってくる。どちらも夢を扱う作品としてリスキーではあるが痛い所を突いてくる。自社のキャラクターを一時否定するという保守から離れるディズニーは個人的に嫌いじゃない。でも、それも分かってやっている所がやはりあざとい 笑。

【総括】
100エーカーの森に関する大きな設定変更はタブーにも近いが、それを受け入れられれば、「クマのプーさん」の本質であった"成長するための心の整理"という点で見事な踏襲と応用だったように思う。心を整え学校に入学した少年クリストファーのように、心を整え家族の元に"父"として戻った大人のクリストファー。"背景、大人になった自分へ"のようなメッセージが突き刺さる作品だった。
HicK

HicK