NM

ある少年の告白のNMのネタバレレビュー・内容・結末

ある少年の告白(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

実際にバプテスト教会の家に生まれ転向療法プログラムの参加を余儀なくされた人物の回顧録がもと。
重そうなテーマとストーリーだが、それ以上に映画としてとてもよく出来ていて率直に面白い。
現在と回想が行ったり来たりして、ここに至るまでの過程がなかなか明かされないので飽きずに観させる。というかかなり引っ張られ、早く教えてくれと焦らされる。あれこうじゃなかったのか、そういうことがあったのかと結構翻弄もされる。
さまざまな賞にノミネートされただけある。
もちろんキリスト教全部が同性愛を否定しているわけではないし、バプテストでも家庭によって対応は様々だろう。この家の両親は普段は穏やかで上品、ザ・幸せな家庭だった。両親に悪気はなく彼らなりに息子を愛しているところがポイント。これを愛とみなすかどうかは人それぞれだろうが。
同性愛矯正施設の入居者は公開時点で70万人いるという。新しい施設も認可され続けている。

---
幼い頃のホームビデオから始まる。元気でかわいいジャレッド君。母親がとても優しく語りかけている。愛されて育ったのだろう。

ティーンとなったジャレッド。
この日、家の中はかなりピリついている。
ジャレッドが同性愛矯正施設に入る日。
親に無理に入れられるのではなく自分で選択したようだが。

父は成功したカーディーラーであり、成功した牧師でもある。
かなり人気のようで大きな教会を持つ。

彼らの教派、特に父にとっては息子が同性愛者などもっての他。
出発の日、つっぷしたまま黙りこくっている。
母が車を出す。心配そうだがいつものように優しく送り出してくれた。

12日間のプログラム。これは対処法を決めるための予備段階。
宿泊設備はないので近くのホテルに泊まったりしている。ジャレッドも母とホテル暮らしをする。
施設は見学もゆるされていない。「治療」内容も口外禁止。費用は約3000ドル。だが宗派内の口コミのみで希望者が集まる。

施設は教義によって同性愛を否定していく。「罪」という言葉がさかんに使われる。

様々な厳しいルールがある。
男女で分けられ、入所者同士触れてはならない。自慰行為禁止。態度も管理され足を組むのも注意される。
トイレは自慰防止のためスタッフが監視。「治るまで信用できないから」とまるで犯罪者扱い。
その他には遺伝子についてや、性趣向について学んだり、自分の親族全員がそれぞれ抱える問題を書き出して壁に貼ったりする。

男子はより男らしく振る舞う特訓。「できるまでフリを」するのが大事なのだと。
同性愛によってどんな災いが起こるかを言い聞かされる。そして自分の「罪」がどんなものか全員の前で告白させられる。
指導者はなぜかラグビーボールを手にしながら話し、指示に従わないと怒鳴りつけ居残らせる。
治療内容を話した入所者は親が怒鳴り込んできて連れ帰っていった。親に知られるとこうなるから口外は禁止されているのだろう。

一応は家族との同意のもと入所した者も、親に徹底的に否定されたうえ無理やり入れられた者も、本人が本気で変わりたくて周りが不真面目だと注意してくる者もいる。

入所前の回想。この家庭に何の問題もなかった時代。
ジャレッドはガールフレンドと泊まりで出かけることに。
父は息子を信頼し楽しんでこいと笑顔で許可。誕生日も重なり車も手に入れた。
しかし結局ジャレッドは彼女にキスまでしかゆるさなかった。やや呆れた様子の彼女。

17歳。大学へ入り寮生活を始めた。
しかしある日、友人の男子学生を部屋に泊めてやると、深夜突然暴行されてしまった。
そして相手の方が泣き出し、教会の少年にも同じことをした、みんなにどう思われるか、と告白して謝罪したが、誰にも言うなと勝手な念押しをして出ていった。
恐らく彼は暴力のあといつも自分から泣いてすがり、また同じことをしてきたのだろう。
一人になったあと崩れ落ちるジャレッド。

程なくして実家に帰った。
そこへ一本の電話。
大学のカウンセラーですが息子さんに同性愛の疑いがありますとのこと。もちろんあのレイプ犯が口止めのためにやった。
両親は電話を信じてしまい息子を問い詰めた。普段穏やかな父がかつてなく取り乱している。
ジャレッドは、そいつはカウンセラーじゃなく学生で性犯罪者であり教会でもやっていると説明。
父はそれにもショックを受ける。私の信じる教会にそんな人間がいるなんて。

後日、ジャレッドは両親に、自分は(女じゃなく)男のこと考えるんだ、
理由は分からない、ごめん、と告白。
父は固まってしまい涙目。父もそれまでの世界観が突然音を立てて崩れ、当惑。

父は同性愛問題に詳しいという友人牧師を家に招いた。
やがてそのベテラン牧師たちが座る席にジャレッドも呼ばれ、父に、この家にいる限り同性愛について認められない、変わりたいと願うか、と聞かれた。
愛する母がすがるような願うような目で見つめている。
はい、変わりたいです、と答えるジャレッド。ぱあっと笑顔になる母。
自分が変われば母たちをこれ以上困惑させずに済む。
この場でいいえと言えただろうか。彼の知識や価値観は今後について選択できるほど成熟していただろうか。判断材料や時間を与えた上で結論を聞いたわけではない。

父は施設に送ることを決めた。施設側に全幅の信頼を置いており、全てを話したらしい。
施設の指導員と面接。
大学で学ぶ文学には今の君にふさわしくない本もあるし(『ロリータ』とか『ドリアン・グレイの肖像』とかだそう)、我々と過ごすべきだと説き伏せられた。

大学時代の回想。
ある男子学生と目が合い、その瞬間に二人は強い力で惹かれ合った。
おしゃべりする二人。ジャレッドは宗教のことばかり話している。そういう家で育った。
相手の方は生真面目な信仰はなさそうだが、彼の、神はその人の中にいるのであってどこかで隠れて監視しているわけじゃない、という解釈はジャレッドを安心させたようだ。
二人はただ手を繋いで眠った。

施設の良くない噂を知っている入所者がジャレッドに耳打ちしてくれた。
上手く演技しないと入所が長引き、全てを奪われると。
ジャレッドは長引く可能性など聞いていなかったので、父に電話し効果もあると思えないと訴えたが、君ならできると言うばかり。治療内容も知らないのに施設を全面的に信用しきっている。

少しずつ自分のおかれている状況を理解していくジャレッド。

翌朝ジャレッドが施設に着くと、指導員が一人の入居者を皆の前に座らせていた。同性愛が父親にバレて虐待された子。
部屋にはいくつもろうそくを灯され全員正装、葬式を再現しているらしい。
今日は別れのために集まってもらった、彼は昨晩自らの過ちで悪魔の餌食となった、という。明確には語られないが自慰行為でも見つかったのだろうか。
彼の家族まで呼ばれている。
そして彼は棺桶に押し込められ、関係者たちから思い切り聖書で殴られ始めた。悪魔祓いだろうか。彼の幼い妹にまでやらせた。
次は何やら冷水に浸けられている。

ジャレッドは見ていられず外に出た。
やがて戻ってきた彼はすっかり従順になり、指導員の言うことにはいはいとすぐ返事をするようになっていた。質問を咀嚼したりせず一切言い淀んだり苛ついたりする様子がない。
徹底的に人格否定された彼がこの先どうするか明らか。

そしてスピーチの時間。今日はジャレットの晩。
といっても彼が実際にしたのはあの日好きな人と手を繋いで寝ただけで、先のことは何もしていない。
男性について考えてしまうことを「反省」するスピーチを始めると、指導員が割って入り、嘘を付くなと怒鳴る。
嘘じゃないと否定すると、空の椅子を持ってきて、ここに父がいる、父への怒りをぶつけろと言う。
ジャレッドは別に父を憎んではいないし、ついにそのまま施設を出ることを決意。
職員らは必死で止めようと説得するが彼の決意は固い。
まず没収されていた携帯を奪取。
ジャレッドはトイレに隠れた隙に母に電話。幸い母はすぐに飛んできてくれた。
優しくて上品な母がこの時ばかりは怒りをあらわにする。あなた何も資格を持ってないでしょう、恥を知りなさい、とやり込めた。指導員は言い返せない。息子を車に乗せ奪還。

母はあの家族会議の夜から息子や家庭のあり方についてずっと考えていたようで、実はジャレッドが辛そうなのも近くで察していたようだ。
入所を決めたのは父と友人牧師であり、母はその席に呼ばれてすらいなかった。彼らに息子には辛い試練が必要だと言われて黙って従った。
ずっと考えていたが今回だけはどうしても彼らが正しいとは思えなかった。

母が父に電話してみるとやはり施設へ返せと言う。
しかしジャレッドには今度こそ説得する、と約束してくれた。

家には帰ってきたが、やはり父は受け入れられず、教会では妻子を責めるような内容を説教をした。

しかしそんなとき、あの悪魔祓いをされていた入居者が自殺し、この家にも警察が聞き取りへ来た。
さすがに父は何も言えなくなった様子。息子に死を願っているわけではない。

自分のために本気で怒ってくれ全てを捨ててでも戦おうとしている母への全幅の信頼と反比例して、ジャレッドの父への信頼の形はそれまでと変わった。

大学生活へ戻り、施設の実態を告白する記事をタイムズ紙に出した。
その記事は一躍話題になったが、父はどうしても読む勇気がないらしい。

ジャレッドは父に、大学での事件について心配の言葉を何もかけてくれなかったこと、施設の件でも聞く耳を聞いてくれなかったことを初めてはっきりと挙げた。
自分も黙って従ってきたけど話もしないならもう一緒にいる意味はないと覚悟を決めていた。

父のほうは、息子を失いたくはないがどうしても道が違う、それに言い争いはしたくない、と考えている。
息子が一番に決まっている母と違い、父にとってはどうしても困難な判断らしい。先輩方に意見を聞き、祈りを捧げるのが精一杯だったようだ。

なかば諦めていた父だが、父との別れも辞さない覚悟のジャレッドと話し、努力する、と言ってくれた。
ジャレッドは支えてくれる母の愛情を胸に、執筆のための一人旅に出発した。
---

ルールや体裁や自分の常識よりも真実の愛の方が強い。人の目を気にしてばかりいると大切なものを見失う。
父が最後に渡すペンについて考えさせられる。大事なものを譲ったと考えるか、最後まで神が息子を導き異性愛者に戻してくださいますようにと願ったのか。いずれにせよそれが精一杯なのだろう。

施設が今も増え続けているということはビジネスとして成立しているからでもだろう。親もそこへ通わせること自体で現実から目を背け安心できる。

ラストで明かされる指導員サイクスの現在には驚いた。自分自身の葛藤を他人にぶつけることでごまかしていたのだろうか。
NM

NM