砂

暁に祈れの砂のレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
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凄い熱の映画だ。主人公ビリー・ムーアの自伝を元に実際の刑務所、元囚人を使って作られた気合の入った一作である。

映画内では語られないがビリーは元々札付きの不良であり、人生の大半を監獄暮らししていたとのこと。タイでボクサーとして再起を図るも、ドラッグにハマりファイトマネーをつぎこんだ挙句に逮捕されるというところから始まる。

およそ考えうる最悪に劣悪な刑務所で、元受刑者たちがビリーに浴びせる罵詈雑言はタイ語であるが字幕が出ない長回しになることで、鑑賞者も「何がなんだかわからないがヤバい」という状況を共有する。

そんな中でビリーはたびたび癇癪をおこし暴力沙汰をおこすわ、署員の汚職により簡単に薬物が手に入る状況でヘロイン中毒に溺れていく。
ただ一瞬の快楽が人生そのものとなってようで、なんの希望もない。

あるとき偶然新設されたムエタイジムを見つけたことで、ビリーは再起を図っていく。それでも途中薬物に手を出してしまうが、ムエタイが希望となったのか、独房で心を落ち着かせ今度は頭を下げてやり直す。
そして、ラストの他刑務所との試合へと繋がっていく。

本当に服役していた人たちを起用し、会話では台本もないとのことで、語られる罪状はマジのものであるという。
ほとんど全員全身、顔まで墨だらけでおっかないので序盤は本当に怖くて絶対収監されたくないと思わせるが、やや優遇されたボクサー棟でのやや和やかな雰囲気など、最悪の場でも待遇や希望の有無で人間は変わるということも考えさせられる。試合シーンは演出が抑制的ではあるが、痛みを感じさせるリアルな戦いだった。

煽りにある「ムエタイでのしあがっていく」というよりは、「ムエタイに希望を見出して自らを変えていく男の物語」というほうが正確だ。
それこそが薬物が執拗に描かれたり、病院のシーンやラストでの対面する男が意味することだろう。
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