けんたろう

愛と希望の街のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

愛と希望の街(1959年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

鳩ちやん……。


無垢なる鳩ちやんの顔が、最早や悪魔にしか見えない。
成るほど鳩ちやんは、貴賤の壁を軽々飛び越え、不断であれば交はる事さへ無かつたらう彼れらに、清らかなる愛と絆とを与へた。謂はゞ、貧富の差を超えた縁を結んだのである。
然しながら鳩ちやんは、其れと同時に、貧富の差を露はにした。裕福なる者と貧困なる者との間に横たはる、迚も人間には越えられまし大きな溝を、非情にも、彼岸の存在を知らしめたのちに、見せつけたのである。
嗚呼、鳩ちやん。熟〻残酷である。

迎へた結末は圧巻の一言に尽く。
貧しき者の生きるすべ。生きる為めの致し方なき詐欺。其の、後ろで巣箱を打ち壊す少年の図からは、彼れの静かなる慟哭が聞こゆ。清貧なんぞは、果たして欺瞞か。
又た、少女からの脱却。即ち、子供たる己れ──を反映させた少年──との訣別。遣る瀬無く鳴り響く其の銃声には、彼女の深き諦念と覚悟とを感ず。一人の人間の、云ふなれば成長が、まさか此んな形で表現せらるゝとは。

“皆んな仲良く“ なんて甘つたれた似非平和思想に、唾を吐き捨つるが如く放たれた大島渚の銃弾。『愛と希望の街』と銘打つておきながら、衝撃の作品である。