はるな

カメラが捉えたキューバのはるなのレビュー・感想・評価

カメラが捉えたキューバ(2017年製作の映画)
4.5
1972年から2016年まで約50年間のキューバの記録。とても価値のある映像の数々だった。監督のキューバとフィデルへの愛が詰まった編集も印象的だった。
ジョンアルパート監督とNetflixは本当にいい仕事をしてくれたと思う。これを配信してくれたこと、日本で見られるようにしてくれたこと、心から感謝したい。

「防弾チョッキをいつも着ていると聞いたけど本当か」との記者の質問に、シャツのボタンを開け胸をあらわにしてニッコリ笑い「私が着てるのはモラルのチョッキだ。強力だぞ。常に私を守ってくれた」と語るフィデルが忘れられない。

「寿命を迎える前に死ぬ者はいない。いずれは私も死ぬ。いつかは知らないがね」と微笑む彼も。「なぜ高級車を乗り回す者のために、裸足を強いられる者がいる? これは一片のパンも持てない子供たちの代弁だ」という演説も。

フィデルはアメリカでは独裁者として報じられていたそうだが、少なくともカメラを通した彼は、熱い信念を持った心優しい政治家に見えた。

資本主義国の日本で育った私は、なんとなく、ロシアや中国を始めとした共産主義国を”危険な国”、アメリカを”安心できる国”と認識していたけど、別に危険なのはアメリカだって同じで、ただ自分がどっちの立ち位置にいるかで見える景色が大きく違うだけなのかもしれない、と思った。一時のキューバは幸せそうだったし、一概に共産主義が悪だとは思えなかった。

その後キューバがボロボロになっていったのは運でしかなかったと思う。資本主義国だって破産する国はある。ただキューバは運悪く、手を組んでいたソ連が崩壊し、隣国のアメリカは経済制裁を続けたから破産しただけだ。

それでも、政治の失敗は苦しい生活を生む。食べ物がなくなり、治安が悪化し、仕事道具までも奪われるようになれば、人々は政治に不満を持たざるを得ない。

テレビを見ながら若者は「こんなのは見てもしょうがない。カストロの政治宣伝だ。俺は共産主義者じゃない」と言った。その一方でフィデルは90歳になっても、国を飢えから救うための活路を探っていた。たとえ心優しく国民のことを真摯に考えていても、結果を出さなければ多くの人が不幸になり、国中から野次を飛ばされる。政治家とはなんて酷な仕事だろうと思った。

多くのキューバ人がアメリカに渡ったけれど、強大な資本主義国であるアメリカは今、崩壊の危機に瀕している。結局正解なんてないんだろう。政治家も個人も、時代の中であがき続けるしかない。願わくば、これからの社会が共産主義の失敗も資本主義の失敗も受け止めて、より良い仕組みを生み出してくれますよう。そして、微力でもいいから、私もその歯車となれますよう。
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