sowhat

スパイダーマン:スパイダーバースのsowhatのレビュー・感想・評価

2.0
【本作の真の主人公はピーター・B・パーカー】

本作の主人公、マイルスには屈託がありません。
立派な両親がいて、街には大勢の友達がいて、悩みを聞いてくれる不良のおじさんがいて、 グラフィティの才能があって。
彼の悩みといえば、成績優秀が祟ってエリート全寮制私立高校へ編入させられたことくらいでしょうか。
なんとか公立高校に戻ろうと思いわざと0点をとっても、逆に優秀さを指摘されてしまいます。
そんな将来有望な彼にはどんな未来が待っているのか。
なんとクモに噛まれてスーパーヒーローになってしまいます。
最初はうまく能力を操れませんが、その後段階を踏んで成長し、一人前のヒーローとして才能が開花します。
さらにこじれかけた父親との関係性も修復できたし、めでたしめでたし。 なんじゃこりゃ。
「誰でもマスクはかぶれる」という彼の言葉は、全国のちびっこ達の胸に響いたのでしょうか。
私の胸には全く響きませんでした。
こんな屈託のないスパイダーマンには魅力を感じません。

英語版wikipediaによると、人種的多様性への配慮からか、マイルスの両親の設定はやや複雑です。
父、Jefferson Davis、African-American、35歳、男性、警察官。
母、Rio Morales、Puerto-Rican、女性、看護師。
マイルスは父の姓Davisではなく、母の姓を受け継いでいますがその理由は劇中では言及されません。
彼はシリーズ中唯一の“the only black, Latino Spider-Man”だそうです。

父、Jefferson Davisの弟でありマイルスの叔父にあたるAaron Davisは本作で大変重要な役割を演じますが、そこに至る背景が全く描かれないため、キャラクターにも兄弟関係にも深みを感じませんでした。

同じことは異次元からやってきたスパイダーマンたちにも当てはまります。
背景も見せ場もない、ただ取ってつけたようなキャラクターたち。
彼らの存在は本作でなんの必然性もありません。

唯一の例外が、ピーター・B・パーカーです。
ヒーローのくせに人生の敗残者であり、みっともなく腹が出て、ダサいスウェット姿で、MJにも見捨てられています。
自分の人生に失敗したダメ男が、未熟な若者を一人前の男に導こうとし、自分の命を捨てることに最後の人生の意味を見出す、そんなラストが本作唯一の胸熱ポイントでした。
本作の真の主人公はピーター・B・パーカーです。
sowhat

sowhat