stanleyk2001

FAKE ディレクターズ・カット版のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

3.6
『FAKE』2016

アメリカ人記者「新垣さんは手話はできたのですか?」
佐村河内「出来ません。彼はほとんど口を聞かない。早く帰りたがっていた」
記者「18年間楽譜を書ける様になろうと努力はしなかったのですか?」
佐村河内「、、、、、、しませんでした。代わりに書いてくれる人間がいたので」
記者「あなたの創作した曲のイメージが新垣さんによってどれだけ達成されたかどの様にして確認したのですか?」
佐村河内「鍵盤を弾く手元で分かる。、、、ちょっと休憩していいですか?」

逃げ出す佐村河内守。戻ってきた彼は交響曲のイメージを描いた文章、グラフなどを提出する。

記者「この文書からどんなメロディーが浮かんだのか、今見せてほしい。鍵盤がなくてもテーブルの上で手を動かしてくれれば一目瞭然だ」
佐村河内守「、、、しばらく鍵盤に触っていないので、、、」
記者「キーボードはない?なぜ無いのですか?」
佐村河内守「この3年間、部屋が狭いのでキーボードはない」
記者「では作曲したのは新垣だと言えるのでは無いか?新垣が作曲出来る証拠は山ほどある。あなたが作曲家だというなら音源などの証拠を出して欲しい」
佐村河内守「、、、、、、」

アメリカ人記者に問い詰められ遂に無言になる佐村河内守。

横浜市の検査で障害者手帳交付となるレベルでは無いと診断され手帳を返納している。

(1)全聾(全く聴こえない)
(2)作曲活動をしている

この二つが両立しているからベートーヴェンの再来みたいにNHKスペシャルで取り上げられたのだが「佐村河内守は聾のフリをしている。彼の作品は自分が作曲した」とゴーストライター新垣隆が名乗り出てスキャンダルになった。

すでに公的機関が全聾では無い(聴こえている)と認定しているが佐村河内守と会話する人は妻の香に質問を伝え香が手話で守に伝えるやり方を取っている。

森達也監督がどれくらい聞き取れるか試すが「何か音がしている」程度しか聞き取れないと佐村河内守は答える。

守と香の夫婦は第三者が居る時は常にこの聾のふりを続けているのだろうか?「全聾の天才作曲家」という設定を守る為に?

それとも守だけが嘘をつき香は騙されているのか?

森達也監督は佐村河内守に対するマスコミや大衆が善悪二元論に陥っている事に不満を持ったと語っている。

森達也監督は『A』『A2』では日本政府転覆を企んでたくさんの人を殺したりガスによる障害を負わせた狂気のテロ集団・オウム真理教の内側に入りこみ、幹部や信徒たちが狂人でも極悪人でもなく狭い価値観に救いを求めて閉じこもった弱々しい若者たちであることを描いた。

『FAKE』で描かれた佐村河内守は何者なのか?横浜市のあまり広いとは言えないマンションに妻と猫と暮らす男。常に居間は照明を落としてあり来客があって照明をつける時はサングラスをかける。

肩まで伸ばした長髪にヒゲ。怪しげな強い印象、森達也監督いわく「絵になる被写体」

佐村河内守の「全聾の天才作曲家」という設定は暴かれ詐欺師扱い。一方ゴーストライターであることを告白した新垣隆はマスコミにもてはやされバラエティ番組でいじられショッピングモールではサイン会も行われる。

悪ノリしている新垣氏も新垣氏だが面白ければ何でもいいと持て囃すTVの無責任さも際立つ。

アメリカ人記者の追及の後、森監督は作曲家なのに全く作曲活動をしないのは何故かと佐村河内守を追及する。

それに応えたのか佐村河内守はシンセサイザーを購入して『Requiem』という曲を完成させる。全聾の彼はどうやって曲の良し悪しを評価しているのか?

曲を完成した佐村河内守に森達也監督は最後にある質問をする。さて佐村河内守はなんと答えたのか?

映画は佐村河内守が詐欺師なのか天才作曲家なのかという判断を観客に委ねて終わる。そこが着地点では無いということを私達に伝えて終わる。
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