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志乃ちゃんは自分の名前が言えないのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます


2018年公開当時に評判を聞いてたので、この機会に。押見修造さん原作ということもあってか「惡の華」に続き、かなり刺さりました。

 吃音症(はっきりとは明示はされませんが)に悩み周囲とコミュニケーションが取れない少女・大島志乃が、音楽好きだが音痴に悩む少女・加代と出会ったことを機にバンド「しのかよ」を結成し、自分を表現すること、そして他者と接することに改めて向き合っていきます。

 まずオープニング。目覚ましが鳴る前に伸びる手。鏡の前での挨拶の練習。朝のちょっとした描写だけで彼女のナイーブな性格とこの日にかける必死な気持ちを表現します。それがあればこそ、直後で描かれる登校初日の緊張感とそれが大敗北に終わる志乃の絶望を観客も共有させられ、その後の志乃を手に汗握りながら応援させられることになります。

 丁寧に描かれるのは、志乃が自分の中の壁をひとつひとつ壊していく過程です。
 まず、加代という友人を得ること。自分を唯一笑わなかった加代に少しの勇気を持って踏み込んでいきます。筆談で書くくだらない下ネタも込みで志乃は自分の壁を壊し、初めての友人を得ます。
 次に、失った信頼を取り戻すこと。加代の音痴を笑ってしまったことを心から後悔し、加代の弱さを無神経に傷つける他者と勇気を持って立ち向かいます。
 そして本作最もエモーショナルなのは「しのかよ」として初めて人前で歌うこと。加代の下手くそなギターに志乃は心が折れかけますが、歌い出すにつれて徐々に気持ちが入っていく過程が繊細に切り取られます。端的に自分を解放する歓びが表現されたシーンになっていて、主役2人を演じた若い女優さんの素晴らしさも際立っている場面だったんじゃないでしょうか。

 普通の映画なら2人が歌う喜びを爆発させてハッピーエンドになりそうなものですが、ラストシーンまで志乃も加代も甘やかさないのは押見修造さんらしいなと。人と接することの恐ろしさと尊さをちゃんと突き詰めて考えているから、単純なハッピーエンドにするより誠実な描き方だと思います。
 思うように人と接することが出来ない今だからこそ、その喜びがより際立って見えた気もしました。
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