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ドント・イットのmidoredのレビュー・感想・評価

ドント・イット(2016年製作の映画)
4.0
息子を亡くしたシングルマザーがネットで魔術師を雇ってオカルト儀式に本気で挑むが…。

これはホラー映画ではなくて精神世界の探求の寓話ですね。そう思うとラストにも納得できるかと思います。

詐欺師に騙されているのか、それとも本物の魔術師なのか。適当なこじつけなのか、あるいは神秘体験なのか。すべてあやふやのまま進むところが、主人公ソフィアの体験する世界そのもので、自分にとってはなかなかスリリングかつ興味深い作品でした。

死んだ息子が恋しい、犯人が憎い、でも本当は…。カウンセリングで治療を受ける人の「心の旅」を物語にしたらこんな感じになるのかなと。儀式の痛々しさにも治療に通じるものを感じます。

正直、突然ワラワラ湧いてくる暗黒舞踏と、変にでかい守護天使やアホくさい漢字は興ざめでしたが、総じて丁寧に作られていて好印象です。光と影、音などの使い方や、予兆の表現などは繊細で、雑なジャンプスケアやモンスターでごまかさず、じわじわドラマを盛り上げてくれるので落ち着いて楽しめます。

オカルトの描き方も計算づくではないかなと思います。儀式はトンチキのオンパレードですし、魔術師も一見セクシストかつアル中で暴力男という絵に描いたようなダメ人間で、「ソロモン」なんて名前からしてうさんくさいのですが、門外漢には無茶苦茶に見えても、本物のオカルトならばあり得るのが「隠された叡智オカルト」の逆説的なロマンなんですよね。

その点、こんなにうさんくさいのに、「よく分からない効果」は出ている…ような気がする??という匙加減がこの映画は非常に上手い。ありきたりのCGで単純に示さず、犬の鳴き声と廊下に散った花に予兆を感じ取らせるあたりは、世界がぐるりと回転するような、まさにオカルトという感じがしました。

もちろんスピリチュアル系詐欺師の手口もこれでしかないので、この手の業界には一切近づかないのが懸命だよなと、ソフィアが真面目に瞑想する姿を見ながら思いました。
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