三樹夫

響 -HIBIKI-の三樹夫のレビュー・感想・評価

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
3.8
漫画原作映画かつアイドル映画。この映画を観ると色々想起する他作品があり、天才型で実力もある主人公が世間に非難されながらもマイウェイを貫き通すロックな姿勢は『ああ播磨灘』を思うし、天才型の主人公とエリート家系の祖父江凛夏は、『ドラゴンボール』の悟空とベジータの関係や、『ガラスの仮面』の北島マヤと姫川亜弓の関係を思い起こす。主人公と祖父江凛夏に絞ってみれば、この映画は小説版の『ガラスの仮面』だ。主人公と祖父江凛夏のシバき合いは『極道の妻たち』での岩下志麻とかたせ梨乃のド突き合いを思い起こさせる。最初は敵対ポジションの奴も最終的には主人公の味方みたいになるのはジャンプ漫画っぽい。

アイドル映画として観れば平手友梨奈が可愛くて十分満足する出来。主人公は普段はツンツンしているが、自分の好きなもの(小説と動物)を語る時や接する時にはデレデレする、ツンデレのやり方で平手友梨奈が可愛いとさせている。普段はツンツンしているが、所々可愛いところを挿入して平手友梨奈を可愛いとさせる。体育で平手友梨奈が走っているカットも、運動音痴そうな何それという走り方で、しかしそれが普段ツンツンしてるのと対比になって人間味が出てるのが可愛いとなる。
平手友梨奈は欅坂46の時から自分が今いる所に入り込むタイプらしく、演技で言えばメソッド演技派でこの映画でも役に入り込んでいる。この映画で北川景子と仲良くなったらしい。欅坂46はダンスが暗黒舞踏みたいなコンテンポラリーダンスで、色々アングラ要素ぶち込んだアイドルというのでサブカル勢に向けての投網漁みたいなことやって、私も引っかかってしまい平手友梨奈目当てでこの映画観た。そらあんなの好きになるわ。

アイドル映画というのを抜きにすると、まず小説界隈のリアリティはほぼない。ミソジニー野郎がいるのはリアルだと思うが、『文学賞殺人事件 大いなる助走』の方がまだ小説界隈のリアリティがある。データ提出なのに手書きの原稿が送られてきて、編集者がその才能に惚れ込むという夢物語。
またリアリティで言えば、これは予算の問題も絡んでいるのだろうが、部室の本棚にある本が綺麗すぎる。あれは部室の本棚じゃなくて本屋の本棚で、図書館とかもそうだけど部室にある本はある程度の経年感や使用感が本に染みついているのに、まるで新品の本しかないみたいに綺麗すぎた。落下して木がクッションになるシーンも、この世界の重力は半分ぐらいしかないのというぐらい落下スピードが遅かった。
また北川景子があまりにも記号的演技過ぎた。主人公と初めて電話で話すシーンと書斎に入っちゃダメと言うシーン、特に書斎に入っちゃダメというシーンで腕を組んでいるのがTHE記号的演技だった。
この映画の一番の問題は散漫すぎる。主人公と祖父江凛夏の関係があったかと思えばシスターフッド要素もあってマイウェイを貫き通す主人公もあってと、あれもこれもとやって散漫になっている。

この映画はベジータのいない『ドラゴンボール』、姫川亜弓のいない『ガラスの仮面』みたいでイマイチ突き抜けない。祖父江凛夏っていうもの凄く良いキャラがいるのにフェードアウトするのもったいない。北島マヤと姫川亜弓の関係にさせればいいのに。っていうかこの映画で一番感情移入できるのは祖父江凛夏で、エリートで挫折経験ここに努力家という要素加わればまさにベジータであり姫川亜弓である、下手したら主人公より人気のキャラになる。なぜベジータや姫川亜弓が人気かというと人間臭くて必死に努力している様に心打たれるからで、そこのポジションに祖父江凛夏は行かないんだと思った。
また天才型の主人公の小説がどんなものか分からない。色々凄いことになっていくが、肝心の小説がどんなものか分からない。主人公は天才型というのを担保する演出とか設定は、今どき手書きで小説書いているというのと世間と対立してもマイウェイを貫くというのだけでフワフワしている。『ガラスの仮面』における泥団子みたいな有無を言わせず主人公すげぇこれは天才だわとなるハッタリがない。
右が面白い小説の本棚、左が面白くない小説の本棚というのは、どういう本の並べ方か分かる?とキャラ間のクイズで提示されるが、本棚にどんな小説が並んでるか分からないしまた撮影用の架空の小説だしで、観てるこっちはそれ言われてもどうしようもないため、右が面白い小説の本棚で左が面白くない小説の本棚の提示の仕方はぎこちないと思った。
『バクマン。』やこの映画など劇中作品を扱う映画は、劇中作品をどう見せるかどう提示するかが難しいが、この映画もうまいやり方を思いついてないように思った。私が上手いと思った劇中作品の扱い方は『8 1/2』のバカでかいセットだけ見せてこの映画観てぇと思わせるやり方と、若干違うがやっぱり『ガラスの仮面』かな。『ガラスの仮面』は劇中作品というかどっちの演技が上手いかというのを漫画で見せるという、絶対見せることの出来ないものをどうしたかというと、泥団子食うという演技が上手いのかどうか分からないけど主人公すげぇとなる天才的なアイディアだと思った。

小説界隈もミソジニー野郎がウヨウヨしていて、小説の出来じゃなくて女という武器使ったんだろうみたいなことほざいてくるが、速攻で主人公にボコボコにされていて良かった。最近『ギャラリーストーカー: 美術業界を蝕む女性差別と性被害』を読んだが、小説界隈でも同じようなことあるんだろうな。漫画界隈は女性漫画家ってだけで舐める奴いるし、小説界隈でも絶対いるだろうな。
「戦争ごっこ」の作者は完全に山田悠介がモデルだな。祖父江秋人は村上春樹がモデルかな。東野圭吾っぽいかなとも思ったけど。
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