山村幸司

響 -HIBIKI-の山村幸司のネタバレレビュー・内容・結末

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


ネタばれ

まずはじめに、私は映画撮影スタッフの1人として
関係者試写で鑑賞したことをおことわりしておきます。

この映画の監督、月川翔はインタビュー等で
「平手友梨奈と、とことん語り合って創った映画」と答えている。
スタッフと出演者の、お互いが信頼できてこそ「いい映画が出来る」と信じ
そのために準備期間のギリギリまで平手と語り合ったという。
実際のところスタッフも「この映画は飛ぶかもしれない」と思っていた。
監督もそのようなことを取材で語っている。それでも語り合ったと。

そういう作り方が出来た映画は幸せだと思う。

しかし、結果的にそのことは
主演女優に「響として生き様を届けられる」という
感覚を研ぎ澄ます時間として作用したのだと思う。

平手友梨奈は、演技をあらかじめ考え抜いて演じるタイプではなく
本番でこそ輝くタイプの表現者だったのだろう。

おそらく、彼女が「女優」として何度も同じことが出来るほど、
邦画やテレビドラマの企画に、その余裕はないと思う。

月川監督は、この映画を
「今回はキレイにまとまってる映画、というのを目指したりはしない。
ワンシーンワンシーン、響の生き様をどうやったら伝えられるか(みんなで)考えて撮っていきたい」
と語り、撮影に臨んだ。

クリストファー・ドイルを意識した
青い色調の画面。

文芸部の部室で、響が初めて敵対する不良の顔に
一瞬かかる、青い窓硝子の、不穏な色。

自分の才能を諦観した小説家が呑んでいるバーの
壁に流れる水と水槽

柳楽優弥がおののく場面での地下鉄の壁や、
小栗旬が芥川賞の結果を待つ喫茶店

そんな世間のメタファーとも感じられる「月川ブルー」のなかで、
主人公の暴発を呼び覚ます、
ある色。

アクションをBGMで煽りすぎないようにしたり、
ライバル作家「山本」の心情を表すかのようなキーボードの音だったり、
登場人物の説明を、キャスティング(つまり、俳優の風貌)によって
納得できるようにしたり。

天才文芸賞の書く小説を、敢えて具体的に提示せず
文章ではなく、あくまで映画としての「画」で表現しようとしている。

たとえば、響が読んでいる本は注意深く伏せられているが
海辺で砂に埋まっている場面で(たぶん、唯一)表紙が映っており、
砂にまみれたこの場面は、ある意味「響の世界感」を象徴しているようにも思える。
カミュ「異邦人」の文庫本。

母親の死に涙せず
好きになった女が求婚しても、愛していないと語り
知人のケンカに巻き込まれ、人を殺してしまう
世間とはズレた感性を持ってることを正直に吐露し
それが故に世間から抹殺される、男の物語。

ある意味響と同じく、自分を曲げず
破滅へと転がり落ちてゆかざるを得ない、不条理な社会

演出部はそこまで考えていたのか、偶然か・・・



一つ一つの場面から、観るたび、観る人ごとに違った
いろんな寓意性や感情をみつけることが出来るほどに
現時点での、月川翔の「マイルストーン」的な
作品に仕上がったと思う。

もちろん、映画も小説と同じで
作者や創り手の元をを離れ、読者や観客のところに届いてから
いろいろな価値観がついていくモノだと思う。

どういうケチがつけられるのか、楽しみな映画だと思う。


(敬称略)        
(文責)山村幸司
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