ベルサイユ製麺

響 -HIBIKI-のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
2.9

若干15歳の“天才”小説家の生き様とか。


原作漫画が人気であるらしい事、主演の女の子が有名アイドルグループの若き絶対エースである事…ぐらいしか存じませんでした。
自分は漫画も割とよく読むし、アイドルも含めて邦楽を愛好しますが、反面余程強く興味を駆り立てられない限り能動的に見聞きはせず、全く情報を入れたいとも思いません。例えばアイドルでいえば、秋元康関係楽曲は一曲も意識的に聴いたことが無かったりします。(嫌い、という感情も無く、ただ興味を持っていない)
平手さんについては、他のアイドルのツイートで目にしたり、通勤電車でよく見かける女子高生が完全に影響を受けている事が窺えたりと、自然に目に入って来るので漠然とした興味は有ります。
一方、映画の場合は何の興味も無い作品でも平気で観るので、この作品は“熱狂的に褒める人が多かった”と記憶してるだけでした。で、観た。

『美味しんぼ』とか以降の、旧来の漫画であまり取り扱われなかった”馴染みの薄いカルチャーを、蘊蓄とリアクション描写で伝えようとする作品”群の中の一本な訳ですが、この作品ならではの特徴は“蘊蓄部分をばっさりカットしている”点に有ると思います。
主人公響や、その他の高名な作家の作品が、どのような傾向でどのように優れていて、その作品に触れた結果どのようなリアクションが巻き起こるのか…などが一切描かれません。とにかく漠然と批評家が“凄い!”と絶賛するだけなのですよね。これはなかなか画期的な事ですよ。例えばボクシングの天才を描く作品で、試合シーンが全く無いようなものですからね。怪獣が出ない怪獣映画…は、有りますね。
例えば音楽をテーマにした漫画のように、親和性が皆無、どころか正反対なジャンルならまだしも、映画で”文章を見せる”事や、”朗読してみせる”事は全く難しくないと思うのです。しかし敢えてやらない。理由はわからないですが、とにかくそう決めたのでしょう。
どんな小説なのかを全く描写しないとなると、“天才そのもの”を描く(と、天才が周囲に及ぼす影響を描く)のが主眼なのですよね。
響が、破天荒で自分流を貫くキャラクターであるのは充分に伝わるように描けています、…というか、それしか描いてないような…。響の根本思想を描かないこの作品が、それでも面白く感じるとしたら、主人公響の言動全てが反射的にカタルシスを感じてしまうようなものだけで構成されているからに他なりますまい。

観たことも聞いたこともないような天才
歯に絹着せぬ物言い
ムカつくヤツを即ぶん殴る
子供が大人を打ち負かす
自分の命を軽視する
でも絶対死なない
結果オーライ

響以外のキャラクターが全て常識的人物か、常識の範囲内の変わり者な事も有って、より響のキャラクターが浮き立ち、更に演じる平手さんの雰囲気と相まって極めて魅力的なキャラクターになっているのは間違い無いでしょう。…なのに、…敢えてなの?…自分はこの一点に心底驚いてしまったのですが、響がどのような背景によってこのような人物になってしまったのか“も!”、一切説明が無い!!!!特別な家庭環境ってこともないみたいで。(家族の描写を敢えてしない!…のかと思いきや、お母さんの声だけ聞こえたりする…)
まるで、少年漫画で、“主人公だから手からビームが出る”みたいに、何の説明も無く天才なんですよねー。あ、天才ってそういうものなんですか?エイフェックス・ツインが他人の曲を聴いたことがないまま作曲を始めたとか、リンがケンカしかしてないのにボクシングの天才だったとか、そういう感じなの?…でも、小説って、前衛派とかでない限りテクニカルな部分の鍛錬は絶対必要ですよね⁇…
この辺り、ひょっとすると原作にはそういう描写もあるのかもしれませんけど、映画だからって端折って良いとは思えないんです。だって、そここそがこの作品のコアの部分なんじゃないの?人の心を打つ表現の源泉、原点や動機をこそ描きたいんじゃないの⁈何を描きたかったの⁇⁇

よし、映画の話を書こう!
作品の“ガワ”の部分は総じて高いレベルだと思いました。画も綺麗だしテンポも良い。劇伴もナウいし、役者もみんな良い感じです。平手さんはもうめちゃくちゃ魅力的に映ってますが、役柄とのシンクロ率が高過ぎて役者としての力量はよくわかりませんでした。断然次作にも期待しますが、それが『さよならミニスカート』とかだったら、…やっぱり分からなくなっちゃうなぁ。
★演出の面で、どうしても気になる事が有ります。この作品に限らず、多くの日本の映像作品、”重要な人物が都合よくバッタリ出会い過ぎ!”…なんでなん?馬鹿なの?嘘っぽくても良いから少しでも何か理屈を考えてくれれば、こっちには気持ちよく騙されてあげる準備が有るのに、なんでそこを省いて良いと思っちゃうの⁇馬鹿なの?舐めてるの?舐めてる?


あー、毒吐いたなぁ。デトックス、デトックス。割と否定的な言いぶりをしましたが、実はそもそものこちら側の間違いには気付いていて、…この作品はオッサンが観るために作られてはいません。これからの未来に夢や希望を抱く(べき)ティーンを勇気付けるため、その原動力となるべく作られるいます。多分。だから、彼らの無垢なチカラに踏みにじられて、後は屍になるのを待つだけの老いぼれに響いてこない、寧ろ嫌悪感を抱かせるだけなのは至極当然なのです。イエー!令和サイコー!フゥー!!万事オッケー!
…オッケー…



…ダメだ。どうしても余計な一言を飲み込めない…。

“天才”響の行動原理は辛うじて破綻してない事は分かるのですが、月に2〜30冊の小説を読んでて、それでもその読書体験の中から“他人の後頭部をいきなりパイプ椅子で殴ってはいけない”とか、“みんな凄く困るから××を止めてはいけない”っていう想像力は養え無かったのでしょうか?…バイオレンス小説ばっかり読んでた?
あと、原作漫画の作者さん、どっかで「自分はあんまり本は読まない」っていってませんでしたっけ⁈そんな成人向けコミックみたいなこと有り得るの⁇