マクガフィン

億男のマクガフィンのレビュー・感想・評価

億男(2018年製作の映画)
3.0
お金や会社や人間関係の価値に対する揺さぶりによる、お金の物神崇拝や会社の物象化は興味深い。原作未読。

創業者で親友である九十九(高橋一生)の会社がお金に翻弄されて、周辺の人々がお金に傾倒したことで、飲み込まれるかのように支配されたことによる喪失は、理解できた。しかし、そもそも創業するにあたるアイディアは描かれているが、創業当初などの仲間同士の結束がまるで描かれていないので、人間関係の物象化が希薄に。会社だけでなく、仲間を失った喪失が描かれていないので、九十九自身のお金や人間関係に翻弄されたことは、肩透かしで骨格がブレる。

その周辺の人々は、一発当てた興奮が忘れられなく、割に合わないギャンブルに嵌る者(北村一輝)。物神崇拝の魔力を垣間見たからか、それを利用してセミナー詐欺をする者(藤原竜也)。隠居するかのように団地に住む女(沢尻エリカ)と、三者三様なことが興味深い。しかし、3人の金と引き換えた代償としての喪失が殆ど描かれないので、これまた説得力が足りない。原作は、どうか知らないが、ギャンブルか経営で破産し、詐欺で捕まり、大金を隠していたことがバレて夫婦生活が破綻するような、将来が透けて見えるような奥深しさが感じないことが惜しい。

その中で、特に沢尻のパートが秀逸。如何に金に興味が無い夫と結婚しても、大金を見れば傾倒することを理解していることと同時に、たとえ使わなくても、金があれば気持ちに余裕があり、安心すること。両方の狭間で生きることは、日本人と金の関連性を一番端的に描写しているようで、金の概念としての物神性に唸らされる。

そんな周辺の人々を通して、お金に囚われた主人公の一男(佐藤健)は、お金の価値についてと、自分自身や家族を顧みることになるが、結局、九十九の手のひらで転がされるように。また、沢山の選択肢を与えて、結論に誘導することは、一種の洗脳のようにも。ディスコビートの心拍数上昇→喪失→叫び→無力感→安心→・・・、のシークエンスも同様に。
説教臭さを含むのなら、それに対する説得力が欲しいものだ。〈衣食足りて礼節を知る〉の描写が弱すぎるので、バランスを欠く。

淡々とした展開だが、各パートの脇役の配置が良く、演技力でさり気なく引っ張り続け、リレー形式で繋がっていることが意外と作風にマッチしているようにも。アクセントとしては充分で、飽きない原因に。

3,000万円を借金しても相談しなかったが、3億円を手にした使い方を相談しに行くことが、人間のサガやエゴのように感じた。1億円を手にした使い方を妄想しても、3,000万円を借金した返済は妄想しないしね。影響は薄いと思ったが、何だかんだ、鑑賞後にお金について考えている。