グラッデン

15時17分、パリ行きのグラッデンのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
4.3
等身大の英雄。

クリント・イーストウッド監督の最新作は、アムステルダムからパリに向かう特急列車に乗り込んだテロリストの暴走を止めた3人の若者たちの物語を描いています。

前作『ハドソン川の奇跡』同様、日本人の自分でも記憶にあるニュースではありましたのでアメリカに暮らす方々からすれば、より鮮明に覚えている事象ではないかと。その意味では、英雄と呼ばれた人々を通じてアメリカという国を長らく描き続けてきたイーストウッド監督ですが、テーマは継続させながらも、鑑賞者により身近な存在に近づいていることに気づかされました。

また、実話に加えて実際にテロを阻止した若者たちが本人を演じるという奇抜な作りは鑑賞前から気になっていましたが、仕上りは素晴らしかったです。

たしかに、本人が演じることはこの上ない材料ではありますが(イーストウッド監督の早撮りを可能としていた)照明を使わない、意図的に演技をさせないといった独特の撮影アプローチだからこそ成立したものだと強く感じました。逆説的に言えば「自然なもの」を意識し続けたからこそ到達した極地のような領域だったのかもしれません。

彼らが事件に遭遇するまでに実際に旅した足跡を辿る一連の描写から事件に至るまでの流れは、映画というよりはドキュメンタリーのような雰囲気で、鑑賞を進める中で作品という枠組みが取り外されていく感覚に陥りました。だからこそ、実際に居合わせた乗客まで集めて作り上げた事件場面の臨場感との温度差もなく入ってこれたと思います。

そして、相変わらずシナリオの作りに無駄が無くて驚かされました。欧州の旅路に至るまでの幼少期の3人の出会いから何気ないエピソード
が伏線となり、綺麗につながる。そして、節々に描かれる宗教的価値観も作品全体に大きく関与していたことに気づかされます。上映時間の短さから考えてもグッドシェイプに絞られた作りだと思います。

イーストウッド御大の確固たるテーマ性の上に展開される匠の仕事ぶりにシビれました。