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ナショナル・シアター・ライヴ 2018 「アマデウス」のmoviefrogのレビュー・感想・評価

3.9
古典的リアリズムが通底する、何十年も前に書かれた戯曲をリバイバルした今回の舞台は、ちょっとどうなんだろうという「音符が多い」まさに「口ポカーン」なケレン味の強い演出。

オーケストラはコロス、我々観客は未来の亡霊。その未来の亡霊に向かってサリエリが一夜の独白、という構造を冒頭でかなり強く打ち出すのは、これから始まるのは過去の演出とは違う「現代のアマデウス」だという演出家の挑戦的宣言だと思う。

ミュージカル「ハミルトン」的な手法で時代物としてのリアルを意識的に破壊したら、新たに見えてきたのはサリエリとモーツァルトの救いようのない愚かさと憎しみ。

凡庸なサリエリは身を焦がすような嫉妬と憎しみに身悶えし、一方のモーツァルトは才能ゆえの傲慢さで凡庸な人々へ憎しみの言葉を撒き散らす。

サリエリの演技はとてもよく、何度も吹き出すほど笑った。でも別に奇を衒うアドリブではなく、全部戯曲どおりなわけで、愚かさと滑稽さのバランスがとてもよく、それがクライマックスの凄みに対してスパイスとして効いている。モーツァルトの演技は違和感を覚える限界のギリギリ。要所要所でトーンを抑制したらサリエリとの対峙に、更に陰影と深みが出たと思う。

上品さとは程遠い二様の憎しみは、結局誰も幸福にはしないのだけれど、醜い感情に真正面から向き合うサリエリの報われなさと、死後の名誉など考えなかったであろうモーツァルトの生きづらさには胸をうたれた。どちらの人生もとても悲しくて。

正直、今回の演出は自分の好みとは少し違う。音楽のアレンジやコロスの使い方、衣装の色遣いなどに演出家の作為が前に出てしまっていて消化不良。でもやっぱり戯曲「アマデウス」はすごいと改めて思った。どんな演出にも耐えうるこの戯曲は、自分が死んだあとの未来にも人類の財産として残っていくだろう。

古典的傑作をリバイバルするのに過度な現代化は必要なのか?という疑問は持ちつつ、今作が意欲的で刺激的な舞台であったことは間違いない。上演を繰り返した後の変化も観てみたいと強く思った。
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