幽斎

悪魔の奴隷の幽斎のレビュー・感想・評価

悪魔の奴隷(2017年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
1987年 4.4 Satan's Sleep 元ネタ、日本劇場未公開
2017年 4.0 Satan's Slaves 本作、元ネタのリメイク
2022年 4.2 Satan's Slaves 2: Communion レビュー済、続編
2025年? Satan's Slaves 3 完結編、制作予定

元ネタ「夜霧のジョギジョギ」カルト的人気を誇る傀作。本作はインドネシア歴代No.1ホラーとして、インドネシアのアカデミー賞「インドネシア映画祭」7部門受賞の快挙。日本でも未体験ゾーンの映画たち2018で上映された。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

「夜霧のジョギジョギ」通過儀礼で良いと思うので、無理してレンタルビデオ店に駆け込む必要は薄い(笑)。ホラーに詳しい友人に依ればDVD化された時は歓喜の声が上がったが、実際に見るとβテープをそのままダビングした様な画質。オリジナルはシネマスコープなのに、4:3のレターボックス。アメリカの配給会社が再編集したモノで、尺も微妙に異なる。私なんかハマー・フィルムを香港映画が真似した様なテイストで悪くないけど、友人の説ではジョギジョギには特に意味は無いそう。

オリジナルがローリングストーン誌で「インドネシア史上、最も怖ろしいホラー映画」と評された事が逆にプレッシャーに為る恐れも有るが、伝説のカルト・ホラーを復活させた本作は、割と時代性を考慮した点も高く評価出来る。原題「Pengabdi Setan」も悪魔の下僕なので、邦題「悪魔の奴隷」もアジャストメントと言える。

前半はアメリカ映画の様に丁寧に創られてる事が手に取る様に判る。だが、後半は「如何したモノか?」オンパレード。脚本的にも悪魔とカルトのオーディエンスで十分と思われるが、其処にアメリカ映画の象徴ゾンビを付け足す事で、一気にプロットが崩壊、と言うか混乱を来す。ラスト20分は怒涛の展開と言うより、観客も一緒に荒波に揉まれてる感じで、御馳走を客人に腹一杯食べさせるインドネシア文化を映画でも感じた(笑)。

文化の違いと思うかは観る人で異なるが、脚本が暴走してると言う指摘は当たらない。ジャケ写の「チリン・・・チリン・・・ベルが鳴ったら恐怖のはじまり」イントロダクションは攫みは十分も、結末を見れば決して合図だった訳でも無く、ホラーと言うのは王道の演出が最善手で有ると再認識。キャラクターも天下一品のこってりラーメン並みに濃く、エンドロールのダンスに至っては、考察のサジすら投げたく為る。

良く思えた前半も有名作品へのオマージュも垣間見えたが、ジャンプスケアに頼り切りではなく、アジア映画らしい「ジメッと」も感じられ、「呪餐」では更にアジアン・テイストに磨きも掛かる。1981年と言う設定も、父親の出稼ぎに依る時代背景とか、大人が外に出て子供が取り残されるシチュエーションも、日本人には咀嚼し易い。設定にハリウッドの様なお仕着せが無く、自然と住宅の隣に墓地が有るのも、昭和テイストすら感じる。死亡フラグもベタだけど、最近のお洒落ホラーに慣れると「こう言うので良いんだよ」太鼓判を押したく為る。終盤の展開が急ぎ過ぎて評価を落としてる点には賛同するが、例えばゾンビと土葬の文化に親和性が有るとか、随所にキラリと光る点が有った事も見過ごせない。家の中の井戸の隣にアレが有るのは腑に落ちないけど(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

私は元クリスチャンですが、日本人には気付き難いだろうが、本作の主人公一家はインドネシアに住む身乍ら、イスラム教を信じない無神論者。インドネシアの国民の9割はイスラム教徒、ムスリムでアラーの神を信じない者は人間に非ず、と言う思想国家では異端者。此れが子供が出来ない焦りから、悪魔に受胎を祈るカルト教団に縋る伏線回収も秀逸。4人共、本当の父親は教団の異なる男で父親は当然知ってる。セックスを名目に勧誘するアジア最大のカルト教団と言えば、統一教会。決して絵空事では無い。

「悪魔の奴隷」母親に取り憑いた悪魔を指してる様にも見える。謎の病もインドネシアの田舎の医療と言う話では無く、悪魔の力を借りて4人も子を儲けた代償。原題の下僕を考察する観点から、ゾンビで有ると言う解釈も成り立つ。種子を撒くのは、キリスト教でも見た事有るが、ソレを目印に悪魔の子を回収する事が、エンドロール寸前で明かされる。「引っ越されたら困る」「また収穫の時期ね」の意味は、是非「呪餐」もご覧下さい。

ミスリード的な祖母の存在も分かり易く、自身は悪魔に返り討ちを喰らうが、死して尚家族を助けようと、井戸の底から出て来た時は、部屋のBRAVIAに向かって「貞子かよ!」かまいたち風のツッコミを入れた(笑)。ゾンビ襲来から家族を守る為に、鏡に映る姿はカッコ良かった。反対に説教者の父親はクズで全く役に立たないのも印象的。結局彼らは祖母と母親と弟と友人を失い、悪魔に完敗したまま逃げ去った。其処に納得の行かない方も居るだろうが、私はシンプルに不条理スリラーとして楽しめたので満足。

「説教者」見慣れない字幕だろうが、キリスト教の牧師や神父の様な聖職者では無く、資格の要件を満たさない。アメリカでは「伝道師」と言うが古くからケーブルTVやネットを使い、全米の数万人の信者に向けた集会を中継して、莫大な富を得る者も居る。実は説教者の描き方が「夜霧のジョギジョギ」は真逆で名作「エクソシスト」の様に大活躍。リメイク版の本作は「家族愛」ウエイトを置いて、信仰に依る救いを逆転。悪魔のカルト教団は現実の脅威に為るが、イスラム教は役立たずと痛烈に皮肉って見せた。本作が大ヒットした理由も、案外ソコに秘密が隠されてるかもしれない。

実は「ヘレディタリー/継承」の元ネタが「夜霧のジョギジョギ」と言う噂も有る(笑)。
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