菩薩

月夜釜合戦の菩薩のレビュー・感想・評価

月夜釜合戦(2018年製作の映画)
3.6
映画を観ていると言うよりは漫画を読んでいる気分になった、それも完全に劇画漫画、手垢の付いた、書き込みが多過ぎて横にすると真っ黒に見えるそれだ。釜ヶ崎についてはよく知らない為どうしても山谷と比べてしまうが、珈琲好きとしては山谷と言えばやっぱり老舗喫茶店バッハである。南千住の駅で降りて泪橋方面に歩いて行くと、夏場であればやれ路上で腹を出しながら寝ているおっさんやら、別にそこで飲まんでも良いだろうに交番の脇でワンカップを呑んでるおっさんやら、店先に脚ぐらっぐらの辛うじてテーブルと呼べそうなただの台を出し囲み、当然ビールケースに鎮座し酒を呑んでるおっさんなんかがワンサカいる。近年はそんな中に安宿を求めて辿り着いた外国人バックパッカーなんかが混ざる様になったが、街中に溢れるおっさんに酒の一杯でも奢る勇気があれば、きっとその歯の抜けた皺くちゃの顔でニタニタしつつ「東京タワーはよぉ、俺が建てたんだよ、すげぇだろ?」なんて自慢話が聞ける事だろう。日本の高度経済成長期を支えた労働力の一旦は確かにそんなおっさん達が担って居たのだろうし、そんな彼等から搾り取れるもんだけ搾り取って高いビルの天辺に上り詰めた輩もいるのだろうし、所謂「ドヤ街」と呼ばれるそこは、今の日本を作り上げた末の残滓なのかもしれない。西成と言えばどうしても「暴動」のイメージが付きまとうが、今の日本に足らないのはこのエネルギーと反骨心なのであろうし、この作品の持つバイタリティとユーモアと言うのも、再びオリンピックを前に浮かれ気味の法治国家ならぬ痴呆国家には必要であろう。足立正生が出て来た時に「これは現代版の赤Pなのか…?」などと思ったが当然そんな訳もない、しょーもないしたわいもないが、この消え去りそうな荒唐無稽なリアル、人間の生き様と言うものは記憶されるべきである。本編関係無いがエンドロールで「ケータリング」と出て来るところ、あそこは「炊き出し」にして欲しかった。あと篠田昌已なんかが非常に合いそうだ。
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