みかんぼうや

1987、ある闘いの真実のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.2
韓国映画の超本気。国家・政治体制の歴史批判と民主化というこれほど骨太なテーマを、これほど迫力ある演出とスケール感に溢れた高クオリティのエンタメとして、今の日本映画が描き切ることができるだろうか?

恥ずかしながら、本作のテーマとなる警察によるソウル大生拷問殺人事件も1987年の韓国民主化運動の歴史もほぼ無知だった私にとって、この映画が与えるインパクトは非常に大きくショッキングだった。世代的に今のK-POPを代表とする華やかなエンタメイメージの前の韓国を知らないわけではないが、そもそも他国への興味が20代後半になるまで無かったこともあり、中国の天安門事件は知っていても、韓国でこれほどの歴史的な“うねり”があったことを把握していなかった(この映画の事件が起きた頃は7歳だったので、当時はもちろん知らなかったが、その後もほぼ接点を持つことのない情報だった)。

それを考えると、私のような外国人、特に今のK-POPしか知らない若者にとっては、この歴史的教訓を描いた作品はセンセーショナルであり、ともすると「臭いものに蓋をしがち」な国家・政治絡みの内容において、ここまで赤裸々に(これでもほんの一部なのでしょうが)、韓国内どころか世界に本作を発信していくあたりに、本作の製作陣と圧巻の演技を見せつけた俳優陣たちの相当な覚悟を感じる。

「韓国では映画は国策だからこれほどのことができるのでは」ということも頭によぎるが、それを“国策”という言葉で終わらせてはいけない、韓国映画人たちの凄まじいエネルギーを本作から感じずにはいられない。

実話ベースということもあり、名前のある登場人物が20~30名近く出てきたり(しかも顔や雰囲気が似た人も多い)、検事、警察、マスコミをはじめ様々な組織が絡み合うことから、話の設定や入り口はかなり複雑に見え、最初はストーリーラインを追っかけるのに必死で、誰が主役かも分からない状態。そして、序盤は他の韓国映画にもよくあるシンプルな“警察の拷問横行”物かと思いきや、ストーリーは民主化への動きとともにどんどんスケール感を増し、一つの骨太な歴史ドラマとなる。

ずっとマイリストに入れている「タクシー運転手」は、本作のもう少し前の韓国民主化運動の先駆けとなった光州事件を描いた作品とは知りつつ、なんとなく後回しにしていた作品だったが、本作を観たことで早く観なければという気持ちが俄然高まった。
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