半兵衛

怪奇 江戸川乱山の半兵衛のレビュー・感想・評価

怪奇 江戸川乱山(1937年製作の映画)
3.8
まさか戦前に日本でゾンビを題材にした怪奇映画が作られていたとは…。冒頭霊術で死人を蘇らせるマッドサイエンティストの描写でこの映画は信頼できると思ったが、その予想を裏切ることなくホラーと時代劇もの両方の面白さがほどよくミックスされており見ごたえのある一作に。ただ当時は怪談ものが恐怖映画の王道として君臨している時代で、こうしたゾンビテイストの作風がこれっきりになってしまったのはお客さんにまだホラーを嗜む下地が無かったのかと残念な気持ちになる。

主人公は江戸川乱山(大抵の人は乱歩と間違えるはず)という絵師(画家)で、殺された父の仇をとるため町へ来たが返り討ちにあってしまうも、彼のことが好きな女性がマッドサイエンティストに蘇生させてもらいスローな動作と虚ろな目と刺されても血が出ないというほぼゾンビ状態に。演じる羅門光三郎も怪奇映画らしい不気味な演技を迫力を加味して熱演しており、特に笑い声がいっちゃった感があって良い。あと主人公が映画に登場するとき死体になっているというのも独特。

復讐のターゲットである三人の悪党たちもいずれも狡猾な奴らばかりで、前半の乱山を始末した用心棒を処理するくだりは三人のキャラクターや地位がよく出ている。前半で悪党たちが活躍する分、後半のモンスターによる報復にカタルシスが増して◎。

横移動によるカメラワークや影の使い方など映像も工夫されていて面白かった、特撮も違和感が無い。あと後半の火事のシーンの燃え方が凄まじくて圧倒されるし、そんな火の中から幽鬼のようにあらわれる羅門光三郎の熱演(衣装に火が移っている)が凄い。

肝心のシーンを敢えて見せずに間接的な描写で表現する比喩の演出も粋。

怪物になってしまった男の悲哀と愛する人間を助けようとするもその想いに報われない女性の悲しみ、そんな二人の悲痛さがにじみ出てくるラストも怪奇映画らしい味わいがあって良かった。

水中から出てくるゾンビの場面に驚かされるが、海外でもやっている作品はあるのだろうか。
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